2013年12月29日 (日) | Edit |
このところ,ブログ更新が途絶え気味で,たまに更新しても「そういちカレンダー」関係になっていましたが,もっとレギュラーな記事も再開していきます。
私は,おととい27日が仕事納めで,今日ようやくそんな記事を書ける状況になりました。
今回は,「和食の世界遺産登録」のこと。ちょっと鮮度の落ちた話題かもしれませんが,このニュースを見聞きしたとき思ったことがその後も気になっていて,ぜひまとめておきたいと思いました。
それに,これからの年末年始にかけて,和食などの「日本文化」に触れる機会も増えますから,いいタイミングかもしれません。
***
12月の上旬に,「和食」がユネスコ無形文化遺産(いわゆる世界遺産)に登録されることが決まった,というニュースを聞いたとき,少し戸惑いがありました。
このニュースについて,「日本の食文化が世界に認められた」と,前向きにとらえた人は多いはずです。
でも,私は「世界遺産」というと,パルテノン神殿のような遺跡や博物館で陳列されている宝物を連想するので,和食もそんな「過去の遺物」扱いになったのか,と感じたのです。
そして,「ほんとうは,和食は〈遺物〉などではなく,今もみんなの生活のなかで現役ではないか」と思いました。
その後,このニュースについて掘り下げた報道をテレビでみました。
すると,じつは「和食の世界遺産登録」のために動いた日本料理界の人たちには,「和食の衰退」に対する危機感があったことを知りました。
つまり,日本の食卓のなかで,和食の存在感がめっきり薄れている。
たとえば,それは子どもの好きなメニューのアンケートなどにあらわれている。あるいは,一流の日本料亭で若い板前がつくる「まかない料理」が,ハンバーグのような洋食だったりする。
ということは,今回の和食の世界遺産登録は,ある種の「衰退」のなかでのことだった,といえるのかもしれません。
***
ある文化が世界で広く「文化」としての高い価値を認められるときには,その文化あるいは文化を担う国家の衰退ということが,しばしばあります。
(このことはエリック・ホッファーという思想家が述べていましたが,出典が今すぐ出てきません。いずれ引用を載せるつもりです)
古代ギリシャやローマ帝国の文化は,その最大の例でしょう。これらの文化は,近代初期のヨーロッパ人が「文化のお手本」と仰いだものですが,それらは遠い昔に滅んだ文化でした。
衰退した文化,滅んだ文化は,自分たちに切実な害悪をもたらすことがありません。だから,(単純化していえば)その文化の美しい,良いところばかりがイメージとして残るのです。
おそらく,ギリシアのポリスやローマ帝国が現実に繁栄していた時代には,その文化は周辺のほかの文化からみて,必ずしも「良い」ものではなかったはずです。
今のアメリカ合衆国の文化のように,多くの人が関心を持つ,無視できない文化であると同時に,嫌悪感や反感もおおいにもたれたはずです。
西暦2000年代に入ったあたりから,「クールジャパン」(今やあまりクールな表現ではないと思う)といって,日本のさまざまな文化が世界でウケている,という話を見聞きするようになりました。現代日本のアニメ・マンガ,ちょっと変わったファッション,アイドル系音楽などのJポップ……これらの「日本文化」は,少し以前には世界のなかでまったくのマイナーだったのですから,たしかにこれは「変化」です。
こういう現象は,もちろんインターネットなどの通信・交通の発達が背景にあるのでしょう。
しかし,じつは「日本の衰退(の兆し)」ということもかかわっているのでないかと,うがった見方もしたくなります。
つまり,日本には経済などの勢いがなくなってきて,貿易摩擦も起こさなくなってきました。欧米でも発展途上国でも,日本にはかつてのような「脅威」の要素はなくなっています。そういう国の文化は,以前よりも愛されやすいのではないか……
その点アメリカがすごいと思うのは,アメリカ文化というのは,今も圧倒的に関心を持たれつつも,あちこちでひどく嫌われてもいるということ。「ハンバーガーが我々の固有の食文化を破壊している」みたいなことがよく言われます。
これは,まだまだアメリカという国に勢いがあり,それだけに関わる国にとっては脅威であり得るということです。
***
ならば,気になるのは「日本文化も,アメリカ文化みたいに世界で嫌悪されたりしていないか?」ということです。
たとえば,「和食とかいうおかしな食べ物によって,我が国の食文化が乱されている」と言って怒っている人がどれだけいるのかいないのか?
私たちに入ってくるニュースは,「日本文化が世界でこんなに好かれています」という話ばかりですが,「じつはこんなに嫌われてもいる」という情報があったら,ぜひ知りたいところです。
もしも和食のような日本文化が「じつは世界でいろいろ反感を持たれている」のだとしたら,日本の衰退はまだまだ,といえるのかもしれません。
(以上)
私は,おととい27日が仕事納めで,今日ようやくそんな記事を書ける状況になりました。
今回は,「和食の世界遺産登録」のこと。ちょっと鮮度の落ちた話題かもしれませんが,このニュースを見聞きしたとき思ったことがその後も気になっていて,ぜひまとめておきたいと思いました。
それに,これからの年末年始にかけて,和食などの「日本文化」に触れる機会も増えますから,いいタイミングかもしれません。
***
12月の上旬に,「和食」がユネスコ無形文化遺産(いわゆる世界遺産)に登録されることが決まった,というニュースを聞いたとき,少し戸惑いがありました。
このニュースについて,「日本の食文化が世界に認められた」と,前向きにとらえた人は多いはずです。
でも,私は「世界遺産」というと,パルテノン神殿のような遺跡や博物館で陳列されている宝物を連想するので,和食もそんな「過去の遺物」扱いになったのか,と感じたのです。
そして,「ほんとうは,和食は〈遺物〉などではなく,今もみんなの生活のなかで現役ではないか」と思いました。
その後,このニュースについて掘り下げた報道をテレビでみました。
すると,じつは「和食の世界遺産登録」のために動いた日本料理界の人たちには,「和食の衰退」に対する危機感があったことを知りました。
つまり,日本の食卓のなかで,和食の存在感がめっきり薄れている。
たとえば,それは子どもの好きなメニューのアンケートなどにあらわれている。あるいは,一流の日本料亭で若い板前がつくる「まかない料理」が,ハンバーグのような洋食だったりする。
ということは,今回の和食の世界遺産登録は,ある種の「衰退」のなかでのことだった,といえるのかもしれません。
***
ある文化が世界で広く「文化」としての高い価値を認められるときには,その文化あるいは文化を担う国家の衰退ということが,しばしばあります。
(このことはエリック・ホッファーという思想家が述べていましたが,出典が今すぐ出てきません。いずれ引用を載せるつもりです)
古代ギリシャやローマ帝国の文化は,その最大の例でしょう。これらの文化は,近代初期のヨーロッパ人が「文化のお手本」と仰いだものですが,それらは遠い昔に滅んだ文化でした。
衰退した文化,滅んだ文化は,自分たちに切実な害悪をもたらすことがありません。だから,(単純化していえば)その文化の美しい,良いところばかりがイメージとして残るのです。
おそらく,ギリシアのポリスやローマ帝国が現実に繁栄していた時代には,その文化は周辺のほかの文化からみて,必ずしも「良い」ものではなかったはずです。
今のアメリカ合衆国の文化のように,多くの人が関心を持つ,無視できない文化であると同時に,嫌悪感や反感もおおいにもたれたはずです。
西暦2000年代に入ったあたりから,「クールジャパン」(今やあまりクールな表現ではないと思う)といって,日本のさまざまな文化が世界でウケている,という話を見聞きするようになりました。現代日本のアニメ・マンガ,ちょっと変わったファッション,アイドル系音楽などのJポップ……これらの「日本文化」は,少し以前には世界のなかでまったくのマイナーだったのですから,たしかにこれは「変化」です。
こういう現象は,もちろんインターネットなどの通信・交通の発達が背景にあるのでしょう。
しかし,じつは「日本の衰退(の兆し)」ということもかかわっているのでないかと,うがった見方もしたくなります。
つまり,日本には経済などの勢いがなくなってきて,貿易摩擦も起こさなくなってきました。欧米でも発展途上国でも,日本にはかつてのような「脅威」の要素はなくなっています。そういう国の文化は,以前よりも愛されやすいのではないか……
その点アメリカがすごいと思うのは,アメリカ文化というのは,今も圧倒的に関心を持たれつつも,あちこちでひどく嫌われてもいるということ。「ハンバーガーが我々の固有の食文化を破壊している」みたいなことがよく言われます。
これは,まだまだアメリカという国に勢いがあり,それだけに関わる国にとっては脅威であり得るということです。
***
ならば,気になるのは「日本文化も,アメリカ文化みたいに世界で嫌悪されたりしていないか?」ということです。
たとえば,「和食とかいうおかしな食べ物によって,我が国の食文化が乱されている」と言って怒っている人がどれだけいるのかいないのか?
私たちに入ってくるニュースは,「日本文化が世界でこんなに好かれています」という話ばかりですが,「じつはこんなに嫌われてもいる」という情報があったら,ぜひ知りたいところです。
もしも和食のような日本文化が「じつは世界でいろいろ反感を持たれている」のだとしたら,日本の衰退はまだまだ,といえるのかもしれません。
(以上)
- 関連記事
-
- 理化学研究所のこと(STAP細胞のニュースに寄せて)
- 正月に風呂敷を広げて世界と日本を考える(世界編)
- 和食の「世界遺産」登録と日本の衰退?
- 「希少なもの」にとらわれない
- 食べてもなくならないケーキ
| ホーム |