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2014年01月25日 (土) | Edit |
 「GDPでみる経済入門」の4回目。
 とにかくまずGDPに関する基礎概念を述べています。これがあやふやだと,やはり経済はわかりません。
 

「付加価値」というパイを分け合う

「利益」にはいろいろある

 ここで,GDPについて前に述べた「生産された付加価値は誰かの所得」ということについて補足します。

 前回(第3回)に「GDP=生産された付加価値」であり,それは「商売,つまり企業の儲け(利益)の一種」だといいました。

 すると,「それなら,GDPが増えても企業が儲かるだけで,私たちには関係ない」と思う人がいるかもしれません。でも,それはちがいます。GDPの増加は,企業だけでなく,私たち個人にも影響します。社会全体に影響を及ぼすのです。

 まず,「企業の儲け=利益」ということについて,もう少し説明しましょう。

 利益とは,企業がその活動で得たお金から,活動にかかったお金をさしひいた残りのことです。企業が得たお金のことは,会計の用語で「収益」といいます。かかったお金は「費用」といいます(「会計」とは,企業などのカネやモノの出入りを記録・管理すること。専門的なノウハウやルールがある)。

 つまり, 収益(得たお金)-費用(かかったお金)=利益 です。

 ただ,「どこまでを収益・費用として考えるか」というのが,場合によってちがいます。ここがポイントです。

 会計の用語で「売上総利益」とか「経常利益」というのがあります。どちらも「利益」ですが,内容がちがいます。

 売上総利益は,その会社の「本業」にかかわる収益・費用を計算したものです。「粗利」ともいいます。

 つまり,工場でモノをつくるのが本業の会社なら,

 製品の売上-工場でかかった費用(原材料費,工場での人件費や電気代など)=売上総利益(粗利)

 これには,本業以外で得た収益や,現場(工場)以外で発生した費用は入っていません。

 「本業以外の収益」というと,たとえば会社の銀行預金につく利子があります。「現場以外で発生する費用」には,たとえば本社(総務・経理など)の人件費や,借入金に対し支払う利子があります。こういうのもふくめて計算したのが,経常利益です。

 さらに,経常利益でもカウントしない「災害による損失」のようなイレギュラーなこともふくめた「当期利益」というのもあります。

 なぜ,いろいろな「利益」があるのでしょうか? それは,場合によって「企業の何をみたいのか」がちがうからです。「本業でどのくらい儲かっているか」をみたいときもあれば,本業以外のこともふくめてトータルにみたいときもあり,それで使いわけるのです。


付加価値という「利益」

 さて,GDP=付加価値=企業の利益の一種ということについてです。
 この場合の「利益」,つまりGDPの世界でいう付加価値というのは,製品・サービスの売上-原材料費(または仕入れた商品の値段)です。

 これは,売上総利益(粗利)よりも,さらに費用の範囲が狭いです。原材料費だけを費用としています。

 じつはこういう「利益」は,企業の会計ではあまり使いません。ふつうの人の感覚ともちがいます。「利益」というには,あまりに多くの費用を計算に入れてないからです。一般的な感覚でいう「利益」とは,原材料費のほか,人件費や家賃や電気代などの諸費用を支払った結果,残った金額のことです。

 しかし,GDPでいう付加価値は,そうではないわけです。原材料費のほかにもある,いろんな支払いをさし引く前の「利益」のことなのです。だから,その利益=付加価値の多くは,企業の手元には残らないで,いろんな相手方への支払となって外へ出ていきます。

 まず大きいのが,従業員に支払う給与(人件費)です。ほかに,大家に家賃を支払ったり,電力会社に電気代を支払ったり,銀行に利子を払ったり……。運送,清掃,警備などのサービスを提供する会社に料金を支払う場合もあるでしょう。

 このようにいろいろな支払をしたうえでの利益は,さきほどの経常利益に近いものです。これを,株主に配当として分配したり,役員へのボーナスにしたりするのです。

 そのうえで残ったお金が,企業の最終的な利益です。当期利益というのは,ほぼこれのことです。この最終的な利益の蓄積を,会計の用語で「内部留保」といいます。


「パイ」を分けあう

 このように,会社が生産した付加価値は,いろんな人たちへの支払いになるわけです。

 これはつまり「付加価値を関係者みんなで分けあっている」ということです。関係者とは,その会社の従業員,納入業者,銀行,株主,経営者等々です。

 そこには,「従業員」といった「ふつうの個人」もふくまれています。また,納入業者などの企業への支払は,その企業の売上(収益)となって,その従業員などの関係者にさらに分配されることになります。

 そういうことが社会のつながりなかで無数に行われて,生産された付加価値をみんなで分けあっているのです。分けあった付加価値=支払われたお金は,それぞれの所得となります。

 だから,GDP=付加価値の増加は,企業の利益の増加だけではないわけです。私たち個人の所得にもつながっていることなのです。

 GDP=付加価値のことを,食べ物の「パイ」にたとえることがあります。うまいたとえだと思います。

 私たちは,みんなでパイを分けあって食べているのです。
 GDPの増加は,「パイが大きくなる」ということです。
 単に「分けあう」だけでなく,経済活動を通してその「パイ(GDP)」を大きくできる,というのは大事なことです。

 こういうと,「パイの分け方をもっと公平すべきだ」とか,気になることがあるかもしれません。それはそれで,重要な問題です。しかしまずは,つぎのイメージをしっかりと持ちましょう。

 つまり,

 付加価値というパイを社会のみんなで分けあっている
 
 このイメージも経済を理解するうえで基礎となる,たいへん重要なものです。


個人と企業の間の分配

 下のグラフは,GDP=付加価値というパイを,個人と企業でどう分けあっているかの比率を示したものです。これは,「所得の分配」という面からみたGDPの内訳です。
 ただし,分けあうベースとなっている数字は,GDPではなく「国民所得」というものです。これは,GDPをもとに一定の足し算・引き算をして,「国全体の正味の稼ぎ・儲け」を割り出した数字です。

国民所得の分配

 国全体の「正味の」稼ぎ・儲け=国民所得を割り出すために,どうするのか? GDPから「国全体の建物や設備(固定資産という)が年々古くなって価値が目減りする分の金額」を差し引くのです。建物や設備は,古くなると価値が下がります。たとえば中古のマンションは,新築のときよりも値段が安いのがふつうです。

 国全体の「固定資産の目減り分」の金額は,2009年度は103兆円になりました。GDPの2割ほどにもなる,大きな金額です。
 ほかにも足し算・引き算がありますが,おもな項目は固定資産の価値の減少です。

 なお,ここではこのような計算方法について立ち入る必要はありません。「国民所得は,GDPと似たようなもの」という理解でもいいのです。
 この「国全体の正味の稼ぎ・儲け」である国民所得は,「国全体の所得の分配」状況をみるうえでよく用いられる数値です。


おもに個人に分配される

 このグラフで「雇用者報酬」というのは,個人に支払われる給与などです。つまり,個人の所得です。これが全体の7割ほどを占めています。

 「財産所得」は,企業以外(個人,政府,非営利団体)が得た,預金の利子や株式の配当などの所得です。実態として財産所得のほとんど(9割以上)は個人の分です。雇用者報酬と財産所得を合わせると78%です。国民所得の8割弱が個人に分配されているということです。

「企業所得」は,企業の利益です。法人(会社)だけでなく,個人の自営業の分もふくみます。

 この数字をみて,「個人の割合が,思ったより多い」という人もいます。しかし,第2回でみたように,個人の買い物がGDPに占める割合は,6割ほどです。国民所得(GDPをベースにした数字)の7割ほどが個人に分配される,というのはそれとだいたいつじつまがあいます。


政府の税収の源泉も,貯蓄の源泉も,GDP

 そして政府は,個人と企業の所得から,その一部を税金として集めています。

 個人の所得には「所得税」が,企業の所得(利益)には「法人税」がかかります。「消費税」というのもありますが,これは「所得を使って買い物をしたとき」にかかる税金です。

 「所得」とは,国民所得のことです。国民所得とは,GDPから「固定資産の目減り分」を差し引いたものです。
ということはつまり,政府の税収の元になっているのは,GDPなのです。税金を納めるというのは,「GDPの一部を政府に渡すこと」です。

 ほかにも,GDPを源泉とするものはあります。「貯蓄」はそうです。

 貯蓄とは,「個人や企業が得た所得のうち,それが新たな買い物に使われないで残った分」です。その残った分を,多くの人は銀行や郵便局に預けます。

 ここで所得とは,GDPのことです。GDPというのは,ある一面からみたら「所得」なのですから。ということは,貯蓄の源泉も,やはりGDPなのです。貯蓄とは,いわば「使われずに余ったGDP」です。

 ところで,銀行や郵便局に預ける以外にも,「貯蓄」の方法はあります。「余ったGDPの行先」は預貯金以外にもある,ということです。それは,株式や国債といった証券を買うことです。

 「金融」や「証券」といったことについては,あとでまた説明します。とりあえず「証券とは,配当や利子といったお金を受け取ることができる,そういう約束を記した権利証のこと」と理解してください。

たとえば国債というのは,個人や企業が政府に「貸す」というかたちでお金を渡して,受け取る権利証です。そうやって証券を受け取ることを,(証券を)「買う」というのです。

 政府は,活動に必要な資金を,税収のほかに国債を売って借金することでもまかなっています。その国債は,人びとが余った所得(=GDP)で買っています。ということは,政府が借金をする源泉も,やはりGDPなのです。これも押さえておいてください。

 結局,税収せよ借金にせよ,政府の活動資金の源泉は,すべてGDPを源泉としているのです。

 ただし,国債を外国人(外国の企業・政府・個人)に買ってもらうこともあります。これは,外国のGDPを源泉として,政府が資金を得ていることになります。

 どの国も多かれ少なかれ,外国人に国債を買ってもらっています。

 日本の場合は,2012年末現在で「国債のほとんど(90%)を国内の個人や企業が買っていて,外国人の割合は少ない」のですが,中には外国人の割合のほうが高い国もあります。たとえば,近年「債務危機」が問題になったギリシャの国債の7割ほどは,外国人が買っているのです。

 きちんとした説明は,あとで「国債」をテーマにした章で行いますが,やはり財政や経済の安定にとっては,国債はおもに国内の人びとに買われるほうが望ましいです。つまり,政府の活動資金をむやみに外国のGDPに頼るわけにはいきません。


くたばれGDP,がんばれGDP

 世の中には,「くたばれGDP」という主張があります。「GDPの拡大ばかり追求するのはまちがっている」「環境や文化のような,GDPではあらわせない価値のほうが大事だ」といった考え方です。

 もちろん私も,GDPがすべてだとは思いません。GDPというのは「買い物額」ですから,お金で売買されるものしかあらわせません。「お金であらわせる以外にも,大事なものがある」というのは,当然のことです。

 しかし,これまでみてきたことからすると,GDPというのはやはり重要なものだと思ませんか?
 私たちはみなGDPという「パイ」を分け合って暮らしています。それは政府も同じことです。政府の活動資金の源泉は,GDPなのです。貯蓄も,GDPが源泉です。

 そういうものを,「くたばれ」といって無視して,経済や社会のことがわかるはずもありません。GDPのことは,経済をみるための重要な概念として,しっかり押さえておかないといけません。

 「くたばれ」という人がたくさんいるので,「がんばれGDP」といいたくなるくらいです。

 だからといって,「GDPこそすべて」ということではないわけです。まずは,それ(GDP,お金であらわせる世界)についてよく知ろうじゃないか,というだけです。

 GDPを深く知ることで,あなたの経済や社会についての視野は,ずっとひらけてきます。それとあわせて,GDPであらわせない世界についても考えていけばいいでしょう(GDPの世界とGDPであらわせない世界の関係についても,勉強するといろいろみえてくるでしょう)。

 ただし,このシリーズでは「お金であらあわせる世界」をメインに話を進めていきたいと思います。「経済入門」として,まず大事なのはそれです。

(以上)
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