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2014年03月01日 (土) | Edit |
 2月23日に「ユダヤ人とは何か」入門・前編という記事をお送りしました。
 今回はその続きです。

 「前編」では,古代以来のユダヤ人の歴史を,きわめておおざっぱに述べました。
 今回の「中編」と次回の「後編」は,「近代社会とユダヤ人」がテーマです。
 これも,あくまでざっくりと。

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 ユダヤ人は,人類が近代の経済や文化を築きあげていくうえで,大きな役割を果たしました。

 たとえば近代社会の経済には,銀行や証券業などの「金融」というものが欠かせませんが,ユダヤ人の資本家は,そのような近代的な金融業の元祖といっていいのです。

 たとえばロスチャイルド財閥は,そのようなユダヤ人金融資本家の代表です。

 ロスチャイルド財閥は,1800年代にヨーロッパの金融の王者として大発展を遂げ,のちにアメリカ合衆国にも進出しました。

 そして,この財閥と関わりのある人びとによって,現代のアメリカを代表する金融機関がいくつも創設されています。ゴールドマン・サックス,ソロモン・ブラザーズといった投資銀行(証券会社の一種)などはそうです。

 今はもう消滅しましたが,リーマン・ブラザーズという投資銀行も,ロスチャイルドとつながりがあります。その経営破たん(2008年)は,「リーマン・ショック」といわれる大混乱の引き金となりました。
 (ソロモン・ブラザーズも,現在は他の金融機関との合併などにより,その名前・ブランドはほぼ消えてしまいました)

 アメリカの金融業界の大物には,多くのユダヤ人がいます。
 
 金融・経済の重要な公職を務めるユダヤ人も少なくありません。

 たとえば,1990年代のクリントン政権の時代に財務長官を務めたロバート・ルービンやローレンス・サマーズ。ルービンはゴールドマン・サックスの経営者出身です。

 そして,オバマ政権の現在の財務長官である,ジェイコブ・ルーも,ユダヤ人。

 それから,1987~2006年の長期にわたってアメリカ連邦準備制度理事会議長(日本でいえば日銀総裁)を務めたアラン・グリーンスパン。
 そして,グリーンスパンの後任のベン・バーナンキも,ユダヤ人。

 さらにその後任で,先月(2014年2月)に就任したジャネット・イエレン(はじめての女性議長)も,ユダヤ人です。
  
 アメリカの金融界,ということは世界の金融界でのユダヤ人の影響力は,たいへん大きいわけです。
 その影響力は,政治・経済全般に及ぶといっていいでしょう。

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 世の中で何かが起きると,「これはユダヤの陰謀だ」という「うわさ話」あるいは「トンデモな話」がときどき出てきます。それにはこのように「金融・経済に大きな影響力のあるユダヤ人がおおぜいいる」ということが根本にあるわけです。

 ただ,「ユダヤの陰謀」といういい方には,「陰謀をめぐらす悪の秘密結社としてのユダヤ人」みたいなものが存在する,という前提があります。

 私は,そのような見方は疑わしいと思っています。

 しかし,「世界の金融・経済に影響を与える意思決定に関与する人物の中に,ユダヤ人が多数いる」ということは,現実として知っておいていいと思います。
 そのような存在が,この世界にはいるのだと。

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 ではなぜ,ユダヤ人は近代の金融の「元祖」になったのでしょうか?

 その起源は,中世のヨーロッパ(ここでは西暦1000年ころから1500年ころ)にさかのぼります。
 中世のヨーロッパでは,キリスト教徒が「人に金を貸して利子を得ること」が禁止されていました。当時のカトリックの考え方です。
 しかし,現実には「お金を貸してくれる業者(高利貸しという)」は,ある程度発達した経済にとっては必要です。

 そこで,中世ヨーロッパでは(キリスト教徒からみて)「異教徒」であるユダヤ人には,「高利貸し」のビジネスを許可しました。そこでユダヤ人には「高利貸し」の仕事をする人が,かなりいたのです。

 じつは,ユダヤ教でも,「利子を得ること」は禁止なのですが,「異教徒に対しては可」ということになっていました。だから,キリスト教徒相手ならいいわけです。

 中世ヨーロッパにおいて,ユダヤ人の仕事は「高利貸し」にかぎりません。
 金融・商業(貿易など)全般が,ユダヤ人のおもな活躍の場でした(もちろん「金持ち」といえるのは,ユダヤ人であっても一部であり,大多数は中小・零細のビジネスを営む人たちでした)。

 中世ヨーロッパにおいて,商業・金融をになったユダヤ人。

 これは,ユダヤ人がヨーロッパ社会において「異端」の扱いを受けたことが関わっています。
 「異端」であるとは,市民・領民としての権利にいろいろな制約があったということです。

 その「制約」の大きなもののひとつに「土地への権利」というものがありました。
 たとえば,農地を所有することが,基本的にできない。

 だから,ユダヤ人は自営農民や地主にはなれなかったのです。
 (ただし地主に従属する小作人的な農民にはなれましたし,東ヨーロッパにはそのような貧しい農民として生きるユダヤ人が数多くいました)

 農民や地主というのは,近代以前の社会では,まさに主流の存在です。
 農業がメインの産業だったのですから。

 ユダヤ人は,その「主流」からははじき出されていました。

 そして,中世の社会では,農業にくらべると「商業」はステイタスが低かったのです。
 まして金融業は,「周辺的」といえるマイナーな存在でした。
 「賤しい」と考える人も少なくありませんでした。

 ユダヤ人は,社会の「周辺的」な存在だったために,当時は「周辺的」あるいは「賤しい」とされた商業や金融業に従事した,ということです。
 
 しかし,近代になってから(つまり産業革命以降)は,経済は農業社中心から商工業中心へと移行していきました。
 新しい時代の経済では,新しい・発展したかたちの商業や金融が不可欠でした。

 そのときに,中世からずっと商業・金融を担ってきた,ユダヤ人がおおいに活躍するチャンスがあったのです。
 1800年代のロスチャイルド家は,その代表的な存在です。

 ロスチャイルドは,ヨーロッパ各地にネットワークを持っていましたが,イギリスを最大の拠点として発展した財閥です。「大英帝国が生んだ」といっていいでしょう。

 これは,ヨーロッパ(西ヨーロッパ)のなかで,イギリスの政府が最も早くからユダヤ人の権利や活躍を認めていたからです。
 
 イギリスでは,人びとの自由や権利の承認,産業・経済の発展ということが,1700~1800年代のヨーロッパでは最も進んでいたので,「ユダヤ人の権利を認める・その力を利用する」ということは,そうした流れの一部だったといえます。

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 時代が大きく変わると,かつて「周辺」だった存在が,急に「中心的」な役割を担うことになったり,「底辺」「最後尾(ビリ)」だと思っていたものが,先端に躍り出たりすることがあります。

 「近代社会の誕生」のときのユダヤ人は,まさにそうでした。

 社会の「周辺」や「底辺」的な扱いから,近代社会のトップランナー的な位置に躍り出たのです。
 そして,現在に至っています。

 ただし,1800年代には,ユダヤ人への差別や権利の制限はまだまだ残っていました。
 しかしそれでも,ユダヤ人は急速に力をつけていったのです。

 そして,1900年ころにはすでに,欧米社会のなかで経済や文化において,有力な存在となっていました。
 金融・経済だけでなく,学問・芸術などでもユダヤ人は,大きな存在です。

 今回はここまで。次回は「近代の学問・芸術におけるユダヤ人」について。

(以上,未完) 
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