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2014年09月15日 (月) | Edit |
 「資本主義のもとでは,富や所得の格差の拡大は必然的だ」と主張する新刊書が,欧米(とくにアメリカで)たいそう評判なのだそうです。

 トマ・ピケティ(1971~)というフランスの学者が書いた『21世紀の資本論』という本です。まだ日本語訳は出ていません。
 私は『週刊東洋経済』(2014年7月26日号)や『週刊エコノミスト』(8月12日・19日号)の,同書を取りあげた特集で知りました。

 「資本主義では格差は拡大する」という主張じたいは,よくあるものです。
 ピケティの本の特徴は,そのことをぼう大なデータをもとに論じたこと。

 20以上の国について,100年200年にわたる所得や資産にかんする統計をもとに,「格差の拡大が長期的かつ普遍的な現象であること」を示そうとしているのです。

 たとえば,「上位1%」などの「高所得者層が国全体の所得のうちどれだけを占めているか」の長期的な推移といったことを明らかにしている。
 そして,「かなりの国で1980年代から格差の拡大が急速になっている」といいます。それはとくに,アメリカとイギリスで顕著であると。

 日本も,格差拡大の傾向はあるが,米英や諸外国とくらべれば大きなものではないとのこと。

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 ピケティの本の日本語訳は,年末に出るそうです。そのときじっくり読むことにします。
 でも,この本を読まなくても,「資本主義のもとで格差が拡大する」ことの理屈は,だいたいはわかります。
 
 少数の富裕層と,多数派のそれ以外の人びと。
 両者の所得(稼ぎ)の成り立ちは,大きくちがいます。

 多数派のふつうの人びとの所得は,たいていは給与所得。自分が働いて得たお金。

 これに対し富裕層の所得は,給与もありますが,それだけではない。ほかに「資産」からの所得があります。たとえば株や債券から得られる配当や値上がりの利益など。不動産を持っていれば,家賃や地代など。
 いわば「自分の資産(お金)に稼いでもらっている」ということ。それが金持ちの所得のあり方です。
 
 そして,「資産」による富の増加は,経済全体の成長よりも急速です。

 たとえば,株価の上昇率は,経済全体の成長率をうわまわる傾向があります。ただしあくまで,長期的にみればの話。株式は「資産」のなかでとくに重要なものです。

 日経平均株価は1955年(昭和30)ころには,どんぶりで「100円」でした。それが60年経った今は「1万何千円」です。100数十倍になったのです。
 これに対しGDP=経済全体の規模は,「10兆円弱」が60年で「500兆円余り」になりました。50~60倍の増加です(株価もGDPも,物価の上昇を計算に入れない数字です)。

 これはつまり,「資産」を持っている人は「儲かる」ということ。
 個々にみれば儲からない人もいますが,大きく全体の傾向をみれば,そのようにいえる。
 資本主義の経済には,「資産を持つ人が得をする」という性質があるのです。
 経済成長の果実は,「資産」を持つ側により多く集まっていく。

 ピケティが論じる格差の拡大とは,「給与所得だけの人」と「資産からの所得がある人」のあいだの差がひらいているということです。
 
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 そして,1980年代以降に「資産の成長」は,きわめて順調だったということでしょう。だから,格差が拡大した。

 そこには金融経済の急速な発達ということもあるでしょう。
 さらに根底には,「平和が続いている」ということもあります。

 「資産」の成長にとって,平和は不可欠です。
 
 この100年のあいだで,世界的に格差が急速に・大幅に縮小したことがあります。
 最もはっきりしているのは,第二次世界大戦の終戦(1945)のころです。このことは,ピケティの研究でも示されています。

 格差の縮小がおこったのは,戦争が世界じゅうの「資産」を壊してしまったからです。社会の混乱やそれに続く変革で,多くの既得権が見直されたという面もあるでしょう。
 
 第二次世界大戦後も,局地的な紛争・戦争はあります。でも世界大戦のような,世界じゅうの富を吹き飛ばしてしまうようなことは,この70年ほどは起こっていません。

 世界の平和が続いて,貿易や金融の取引が順調に伸びていけば,「資産」の富はどんどん大きくなっていく。
 そのことで,格差も大きくなっていく。

 単純化していうと,近年の「格差の拡大」は,長期間の平和がもたらしたものです。

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 私たちは,これからの世界がもっと平和になってほしいと思います。
 でも,その平和が「格差の拡大」につながるとしたら,やっかいです。

 格差があまりに大きくなると,社会に緊張や不満がうずまくようになるからです。
 多くの戦争や革命やテロの背景には「格差への怒りや不満」というものがあります。このことは,最近の当ブログの記事 (格差と戦争)に書きました。

 長期の平和は格差の拡大をもたらし,それが平和を破壊する恐れがある。

 そこで,「格差の是正」ということが,これからの世界では,いろんなかたちで問題になってくるはずです。これまで以上に深刻になっていく。

 具体的には,「富める者に対し今より多くの税金をかけて,それを多数派に分配する」ことが,政治の大きなテーマになっていく。
 とくに,格差の拡大をもたらす「源泉」となっている,「資産」への課税の強化が,重要な論点となるはずです。ピケティも,それは指摘しています。

 今回はここまで。続きはまた今度。
 
(以上)
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