2015年06月14日 (日) | Edit |
「ドイツ圏」「ドイツ帝国」

 前々回の記事 ドイツという攪乱の中心 の続編ですが,この記事だけ読んでいただいても大丈夫です。

 これまでの歴史で,ヨーロッパがひとつの国家に統一されたことはありません。

 ただし,古代ローマ帝国(2000年前ころ~西暦400年代)の時代は別です。
 当時は,西ヨーロッパの主要部分(イタリア,フランス,スペイン,ドイツの一部,イギリスの一部など)がローマの支配下にありました。しかし,西ローマ帝国の滅亡(400年代)以降は,これだけの範囲がひとつの国に支配されたことは,ほぼないのです。
 
 例外もあります。西暦800年ころの,カール大帝のフランク王国(フランス,イタリア北部,ドイツ西部などを支配)は,そうです。しかしその支配は長続きせず,彼の死後,王国は分裂してしまいました。
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 1800年代初頭のナポレオンや,第二次世界大戦(1939~45)のナチス・ドイツも,ヨーロッパ制覇をめざし,一時期はそれをほぼ実現しました。しかし,その支配もやはり短期間で終わっています。

 ヨーロッパでは,強国どうしの力のバランスが保たれてきました。
 特定の国がほかを征服しようとしても,困難な状態がずっと続いているのです。
 
 近代のヨーロッパを代表する3つの強国(イギリス,フランス,ドイツ)の力のバランスは,まさにそうでした。1つの国がヨーロッパを制覇しようとしても,残り2つの強国が同盟して対抗すると,勝てません。

 たとえば第一次世界大戦(1914~18)や第二次世界大戦(1939~45)のときのドイツは,単独でみればイギリス,フランスそれぞれの国を大きく上回る力(経済・軍事・人口)を持っていました。

 しかし,イギリス・フランスの同盟に対しては,必ずしも優位とはいえませんでした。まして,イギリス・フランスの同盟にロシア(ソ連)が加われば,ドイツは明らかに不利です。さらにアメリカも敵にまわせば,まったく勝ち目はありません。そしてじっさいに,ドイツは2つの大戦でイギリス,フランス,ロシア,アメリカと戦って敗れています。

 第一次世界大戦(1914~18)と第二次世界大戦の2つの大戦は,ドイツが「ヨーロッパ制覇」をめざしてひき起こしたものでした。(この点については前々回の記事ドイツという攪乱の中心参照)

 なぜ当時のドイツは,「ヨーロッパ制覇」などということを考え,戦争をはじめたのでしょうか?
 あたりまえですが,「勝てる」と思ったからです。

 それは,自分たちの産業や軍事の力が,ヨーロッパで単独トップにあったからです。ドイツは,産業革命などの近代化においてイギリスやフランスよりは遅れてスタートを切りました。しかし,1800年代後半から急発展して,1900年代初頭には,イギリスやフランスをしのぐ工業国・軍事大国となりました。

世界全体のGDPに占める主要国のシェア(%)
       1820年   1870年    1913年 
アメリカ   1.8      8.9      19.1
イギリス   5.2      9.1       8.3
ドイツ    ―       6.5       8.8
フランス   5.5      6.5        5.3
日 本    ―       2.3        2.6

(アンガス・マディソン『経済統計で見る世界経済2000年史』より)

上の表でみると,1913年(第一次世界大戦の直前)のドイツのGDP(国の経済規模)は,イギリス,フランスより頭ひとつ抜きん出ています。(それでも,ドイツ単独では「イギリス+フランス」に及ばないことにも注意)

 このような「強大なドイツ」が「ヨーロッパ制覇」の野望を抱いて暴れ出した結果,2つの世界大戦が起こりました。

 ドイツという国は,勢いづくとものすごい自己主張をはじめて,世界を混乱に巻き込んでしまう存在なのかもしれません。20世紀の歴史をみると,そんなふうにも思えます。

 そして,第二次世界大戦後の欧米(大戦に勝利した米・英・仏・ソ連)の政治指導者たちは,「ドイツを押さえこむ」ことを重視しました。

 この「危険な国」は終戦後まもなく東西に分割され,西ドイツはアメリカを中心とする自由主義・資本主義諸国の「西側」陣営に,東ドイツはソ連を中心とする社会主義諸国の「東側」陣営に組みこまれました。
 軍備や軍事行動にはさまざまな制約が課され,二度と戦争をひきおこすことのない「平和国家」に生まれ変わりました。そのへんは,戦後の日本と似ています(日本は分割はされませんでしたが)。

 戦後の西ドイツは日本の高度経済成長のような復興・発展を遂げ,経済大国として繁栄しました。

 西ドイツの人口はイギリス,フランスと大きくは変わりません。そして,強力な軍備もない。世界にとって「危険」な存在にはなり得ませんでした。

1990年(東西ドイツ統一の直前)の人口
 西ドイツ  6300万人(東西合わせると8000万人)
 イギリス  5700万
 フランス  5700万
 

 ***

 第二次大戦後の世界では,アメリカとソ連が対立する「東西冷戦」がくり広げられました。

 その後,1990年ころにはソ連などの社会主義国が崩壊して冷戦は終わり,東ドイツは西ドイツに併合されました。この「ドイツ再統一」によって,ドイツは大戦以前の領域を,かなり回復したことになります。

 社会主義だった東ドイツの経済発展は,西ドイツにくらべると大幅に遅れていました。そのような東ドイツを吸収したため,ドイツの経済は再統一後,一時期混乱しました。

 しかし,再統一から20数年を経て,ドイツは再びヨーロッパで他を圧倒する存在になっています。人口やGDPはイギリス・フランスの1.3~1.4倍。1人あたりGDP(経済の発展度や生産性を示す)も,ドイツは2国を上回ります。

ヨーロッパの大国(2012年)
       人口     GDP    1人あたり
                      GDP
ドイツ    8300万人  3.5兆ドル 4.1万ドル
イギリス  6300      2.5     3.9
フランス  6400      2.6     4.0
 

 しかも再統一後のドイツは,その経済力によって,周辺諸国に対し強い影響力を及ぼす国になっていきました。それらの周辺国も含め,ドイツ一国を超えた,大きな勢力圏を形成しつつあるのです。

 「ドイツの強い影響が及ぶ周辺諸国」には,つぎの国ぐにがあります。
 
1.大ドイツ・・・特にドイツとの関係が深いオーストリア,チェコ(オーストリアはドイツ語圏)
2.旧社会主義国・・・ポーランド,スロバキア,ハンガリー
3.小粒な西欧諸国・・・オランダ,ベルギー,ルクセンブルク,スイス


 これらの国ぐにを,一般的な名称はないので,ここでは「ドイツ勢力圏」と呼ぶことにします。下の地図(記事のトップにあるものと同じ)の,赤かオレンジの斜線のある国ぐにです。赤い斜線は上記「1.大ドイツ」で,オレンジは「2.旧社会主義国」「3.小粒な西欧諸国」です。

「ドイツ圏」「ドイツ帝国」
 
 これらの「勢力圏」の国ぐには,ドイツ経済に大きく依存しています。たとえばチェコの輸出総額の3割はドイツ向けで,その額はチェコのGDPの2割に相当します。オーストリアでもドイツ向けの輸出が,輸出総額の3割を占めます。

 これは,非常に高い割合です。
 たとえば東南アジアの国ぐには,中国・日本・アメリカがおもな輸出先ですが,そのうちの一国がこれほどのシェアを占めることは(一部の例外を除き)ありません。タイの場合は,対中国・対日本・対アメリカとも輸出の1割程度と,だいたい同じです(2012年)。

 上記の「ドイツ勢力圏」の国ぐにでは,輸出総額の2~3割がドイツ向けで,それがGDPの1~2割に相当します。

 また,これらの国ぐには,ドイツの金融機関から多くの投資・融資を受けています。その重要性は,輸出の場合と同じようなものだと,とりあえずイメージしてください。(たとえば,オーストリアでは「海外からの与信に占めるドイツの金融機関の割合」は,30%になります・・・この点についての説明は省略。「ドイツ経済の頑健性とリスク」『三井住友信託銀行調査月報』2012年6月号より)

 このようにドイツへの輸出が経済の中で多くを占め,ドイツから多くの投資や融資を受けている国ぐには,ドイツに対し,強い自己主張ができなくなります。あからさまな従属を強いられることはないし,相互に利益があるとはいえ,やはり対等の関係にはなり得ません。

 これらの国ぐには,ドイツを盟主とする,一種の経済圏をつくっているのです。それがここでいう「ドイツ勢力圏」。

 このような勢力圏は,この20年余りで徐々に形成され,ここ数年ではっきりと姿をあらわしてきました。

 この「勢力圏」の東側の国ぐに(ポーランド,チェコ,スロバキア,ハンガリー)は,冷戦時代にはソ連に支配される社会主義圏に属しており,西側諸国との交流はかぎられていました。ドイツにとっては「近くて遠い国」だったのです。

 しかし,ソ連が崩壊したことによって,これらの「東」の国ぐには,ドイツにとって目の前に広がる「フロンティア」となりました。
 再統一後のドイツは,この「フロンティア」に経済的に進出していきました。安価で教育水準の高い労働力を求めて工場を建てたり,さまざまな投資を行ったりしました。
 
 ***

 では,「ドイツ勢力圏」の規模は,どのくらいのものか。

「ドイツ勢力圏」の規模(2012年)
          人口    GDP   1人あたりGDP
ドイツ      8300万   3.4兆ドル  4.1万ドル
チェコ      1100     0.2      1.8
オーストリア   850     0.4      4.7
オランダ     1700     0.8       4.6
ベルギー    1100     0.5      4.4     
ルクセンブルク  50     0.05     10.5
スイス       800     0.6      7.9
ポーランド    3800     0.5      1.3
スロバキア    540     0.1     1.7
ハンガリー    1000     0.1     1.2 

「ドイツ勢力圏」の総人口:1.9億人 
          GDP合計:6.7兆ドル
          1人あたりGDP:3.5万ドル


比較データ
          人口    GDP   1人あたりGDP
イギリス     6300万   2.5兆ドル  3.9万ドル
フランス     6400     2.6      4.0

アメリカ    3億2000万  16.2兆    5.1
中国     13億8000    8.4      0.6
ロシア     1億4000    2.0     1.4
日本      1億3000    6.0     4.7
 

(矢野恒太記念会『世界国勢図会』より) 

 「ドイツ勢力圏」は,人口1.9億人で,GDPは6.7兆ドル。
 これは,アメリカ(3.2億人,16兆ドル)と比較すると,人口はその6割,GDPは4割になります。
 GDPでみると,世界3位の日本(6.0兆ドル)と2位の中国(8.4兆ドル)のあいだに位置します。

 ただ,中国は1人あたりGDPが0.6万ドルと,先進国の数分の1以下のレベル。社会の生産性や技術レベルは「まだまだ」ということです。

 そこで,「ドイツ勢力圏」は,先進国レベルの生産性を持つ経済圏としては,人口でもGDPでもアメリカに次ぐ規模ともいえるのです。

 また,ヨーロッパのほかの大国との比較では,「1.9億人・6.7兆ドル」は,人口でもGDPでもフランスとイギリスの合計(1.3億人・5.1兆ドル)を大きく上回ります。

 このような力の不均衡は,イギリス・フランス・ドイツの3国のあいだでは,はじめての状況です。あくまで「この計算の仕方では」ということですが,ドイツの経済的パワーが,イギリスとフランスの合計をはっきりと上回るのは,これまでになかったことです。

 なお,日本は「ドイツ勢力圏」に匹敵する規模ではあります。しかし,周辺諸国を自国の勢力圏に組み込んでいくような勢いは,現在はありません。たとえば日本にとって,ドイツにおけるチェコやオーストリアにあたるような「絶大な影響を及ぼす国」は,存在しません。「日本への輸出額がGDPの2割にあたる」という国はないのです。

 一方「ドイツ勢力圏」は,影響の範囲を広げつつあるようです。

 識者によっては,「勢力圏」の範囲を,もっと広く考えています。
 オーストリアの南にあるスロベニアやクロアチアのほか,東欧のルーマニア・ブルガリア・ウクライナなども「勢力圏」に含まれる,といった見方です(エマニュエル・トッド『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』文春新書,この本については次回に紹介。トッドはこの「勢力圏」の人口やGDPを見積もっていて,そのやり方をここでも参考にしています)。

 ここでいう「ドイツ勢力圏」の範囲をどうみるかは,むずかしいところがあります。
  
 この記事では,ドイツへの輸出依存度などの指標が一定のレベルに達し,近隣にある国をとりあえず「勢力圏」に含めました(スロベニア,クロアチアもこの基準で「勢力圏」に含まれるかもしれませんが,データがみつからなかった)。

 ***

 このような状況について「新たな〈ドイツ帝国〉が台頭しつつある」という識者もいます(さきほど述べた,エマニエル・トッド)。

 たしかに「ドイツ勢力圏」は,周辺諸国を自国のパワーに依存・従属させている点で,「帝国」のようだといえます。もちろん,その「従属」のあり方は,昔の「帝国」とはちがいます。もっとソフトで,お互いの利益や立場をある程度は尊重しあっています。だから,「帝国」というより「勢力圏」というほうがふさわしいように,私は思います。
 
 とにかく,「ドイツ勢力圏」という,新しい重要なプレイヤーが世界の勢力図のなかに出現したのです。

 それは,ただちに戦争を引き起こすような「危険」な存在ではないでしょう(この点については,次回)。
 
 しかし,これからの世界にとって,重要な存在であることはまちがいありません。ドイツの考え方や行動しだいでは,中国以上に世界に影響をあたえることもあるのではないか。それがどんな「影響」であるかは,まだはっきりしませんが…
 
 なにしろ2億弱の人口と,中国にも匹敵するGDPと,発達した産業が「ドイツ勢力圏=ドイツ帝国」にはあります。そして(日本とはちがって)ドイツには対外的な影響力がある。周辺諸国を経済的に組み込むだけでなく,その経済的パワーからEU全体を主導するようにもなっています。(この点も,次回)

 私たちは,国際情勢というと,まずアジア・太平洋に目がいくので,ヨーロッパのことはあまり知りません。でも,少し意識してみると,ヨーロッパの勢力図は,ずいぶん様変わりしているのがわかります。その動きの中心が,ドイツだということ。

 「これからのドイツが何をめざし,どんな影響を世界に及ぼしうるのか」については,このシリーズの次回に。
 今回は,「ドイツ勢力圏=ドイツ帝国」の存在を確認するにとどめます。

(以上) 
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2015年06月05日 (金) | Edit |
 日本年金機構の年金情報流出問題。
 ちょうど1年ほど前にはベネッセの個人情報流出の問題が,さかんに報じられていました。
 今回の記事は,「個人情報」という素材で,その当時書いたもの。
 堀り起こしたいと思ったので,再放送です。

 ***

 日本年金機構の,年金情報流出。
 去年の今ごろには,ベネッセの個人情報漏えいの事件もありました。
 
 「個人情報」というと,私はジブリの映画にもなった『ゲド戦記』(アーシュラ・K・ル=グウィン作)というファンタジー小説の世界を,なぜか思い出します。この作品はシリーズ化されており,第1作は1960年代末に書かれたもの。
 
 『ゲド戦記』の舞台は「アースシー」という古代・中世風の架空の異世界。そこでは魔法が科学や学問のような役割をはたしている。主人公の「ゲド」は,その世界のエリートである「魔法使い」の1人。

 アースシーでは,すべての人やモノに「真(まこと)の名」というものがあり,その「真の名」がわかればその人・モノに魔法をかけることが可能です。

 そこで,人びとは「真の名」をごく限られた身内以外には明かさず,「通り名(通称)」で暮らしています。ほかに「真の名」を知っているのは,子どものときに「真の名」をつけてくれた魔法使いだけ。

 主人公も,「ゲド」が本名ですが,ふだんは「ハイタカ」という通り名で世間をわたっているのです。

 ***

 アースシーにおける「真の名」というのは,私たちの社会の個人情報やパスワードみたいなものです。

 住所や職場を明かすのは,信頼できる相手に対してだけ。悪意のある相手にその情報を渡すと,迷惑や危害をこうむる恐れがある。
 相手の得体が知れない場合は,本名を明かすこともためらわれます。じっさい,ネット上では「本名」ではなく「通り名」を使うことも多い。

 高校時代(1980年ころ)にはじめて『ゲド戦記』を読んだとき,「本名をふせて暮らすなんて,奇妙な世界だ」と思いました。「真の名と,通り名の使い分け」という感覚をのみこむのに,多少の理解力が必要でした。

 でも,作品が書かれた当時は「奇妙」だったことが,今の世界ではかなり「ふつう」になっているのです。今の子どもたちがこの小説を読むときは,「真の名」「通り名」というニュアンスは,すぐにピンとくるはずです。

 アースシーの世界は,一見「古代・中世風」ですが,じつは現代的な個人主義の社会です。
 誰もが自分の本名(個人情報の基本の部分)を,近所の人にも,ほとんどの友人や親せきにも明かさず暮らすのです。魔法という「テクノロジー」のせいです。

 「自分」以外に対し「壁」をつくって,人びとが生きている。「自分」以外に安心できる場所が,めったにない社会。

 『ゲド戦記』の第1巻は,ゲドによる「自分さがし」の物語です。個人主義の社会で,少年期から青年期にかけてのゲドが,「自分は何者なのか」について理解を深めていく過程。
 
 ネタバレになるので述べませんが,その後の多くの小説や映画などで模倣される,いろんな要素がこの作品にはあります。だからこの作品は「古典」なのです。

 ***

 「個人情報」をしっかりと守りたいなら,アースシーのやり方を徹底することです。

 社会生活のなかで,本名を使うことを原則としてやめ,「通り名」を使うことにする。
 通り名は,複数持つことができて,職場用,コミュニティ用など,場面に応じて使い分ける。職場が変わったり,引っ越したりしたら,通り名を変えることにする。

 本名は,親子や夫婦など,ごくかぎられた「信頼できる範囲」にしか明かさない。他人に本名を明かすのは,きわめて例外的な「信頼」の証となる。

 本名や住所などの基本情報を知らせる相手は,役所や金融機関や郵便局などのごくかぎられた「信頼できる専門機関」だけ。まるでアースシーにおける「魔法使い」のような立場です。この専門機関には「本名」とあわせ「通り名」も登録する。

 これらの機関は「信頼に足る」ために,きわめて厳格な情報管理の義務を負う。個人情報のデータベースは,巨額の金塊や現金がおさまった大金庫か,放射性物質が保管されている場所のように扱われる。

 人びとは,「本当の住所」のほかに私書箱のような「仮の住所」を持つ。
 ほとんどの通信はネット上で行われるが,モノのやり取りをするときは「仮の住所」で受け取る。「仮の住所」を管理する機関に依頼すれば,「本当の住所」に転送してもらうこともできる。「仮の住所」を管理するのも,厳格な義務を負う「専門機関」である。

 それでも不安な人は,たとえば「仮の住所」から直接「本当の住所」に転送するのではなく,いったん別の「仮の住所」に転送して,そこから「本当の住所」に送ることにすればいい。

 一般的なサービスの利用・買い物・就職は,「通り名」で行うことができる。「通り名」による債務不履行などの問題があったとき,業者は当局に申請して,該当する人物の「本名」を確認し,請求や訴訟を行う・・・・・・

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 このくらいやれば,個人情報は守られて,安心でしょう。

 もちろん「専門機関」がどれだけ信頼できるのか,という問題はあります。だから「専門機関」を徹底的に監督する制度や,義務違反や過失あった場合のきびしい罰則も必要です。
 
 このような社会になれば,多くの企業は「個人情報を蓄積して,顧客を囲いこんで・・・」などとは考えなくなるでしょう。
 「個人情報のようなめんどうな危険物は,できれば取得したくない」と考えることでしょう。

 企業への申込みをする際の記入シートに「本名や本当の住所を書かないでください。もし書いても,責任は持てません」という注意書きがされるようになるのです。

 以上は妄想であり,悪い「冗談」といえます。
 でも,近年の「個人情報流出事件」への騒ぎかたをみていると,社会は「アースシー」的な方向を真剣に模索しかねない,などとも思います。
 つまり「めったに本名を明かさず生活すること」が一般的な社会。
 とにかく,今の私たちは「真の名」を知られるのがイヤなのです。

 これからの世の中を考えるうえで「そういうこともあるのでは?」という問いかけをもってみると,何かがわかってくるかもしれません。
 
(以上) 
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