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2015年08月14日 (金) | Edit |
 東芝の「利益水増し」の問題。
 この件に関して大マスコミは,おおむね「不適切会計」という言葉を使っています。
 今朝(8月14日)の日経新聞では「東芝の新しい社外取締役が決まった」というニュースが1面でしたが,11面の関連記事(「東芝,情報共有の徹底必要」)でも「不適切会計」という表現です。

 でも,この件はほんとうは「粉飾決算」といっていいでしょう。
 「不適切会計」というのは,お茶をにごした言い方です。「故意だったかもしれないし,ミスだったかもしれない」というあいまいさを含んだ表現です。
 しかし「粉飾決算」だと,「意図的な犯罪的行為」というニュアンスになります。

 何年にもわたり1500億円分の利益を水増ししていたのです。
 意図的・組織的なものであることは明らかです。そこに社長の指示があったことが伺える事実も,第三者委員会の報告などであがっています。

 でも「粉飾決算」といわないのは,それが「重罪」だからです。「重罪」だけに,その言葉を使うことに慎重になっている。

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 「粉飾決算」とは「意図的に会計帳簿の数字をごまかして,決算をよくみせること」です。
 これは,資本主義において,重大な犯罪です。

 近代の経済の中心になっているのは,株式会社です。
 そして,人びとが株式会社に出資するときも,出資に対するリターンとして利益の分配を受けるときも,その会社の株式を売買するときも,その判断の基礎になるのは会計帳簿・決算書です。

 つまり,会社のお金の流れや財産の状況を記録したものをみて判断する。中には「決算など知らないけど,その会社の株を買っている」という人もいますが,それは基本から外れたあり方です。

 帳簿や決算が信用できなかったら,株式会社という制度は成り立ちません。
 だから,粉飾決算は資本主義に対する重大な犯罪ということになります。

 「会計の信頼性」を確保する――これは,資本主義が発展するうえでの大きな課題でした。

 近代の初期にあたる1600~1700年代のイギリスでは,一種のベンチャー・ブームがおこって株式会社の原型といえる企業がつぎつぎとつくられました。しかし,それらの企業のなかにはでたらめな会計・決算を行うものが少なくありませんでした。赤字なのにばく大な利益が出ているかのような報告をして多くの出資者を募り,そのあげくに経営破たん・・・そんなケースが続出しました。

 そこで,イギリスでは「株式会社は原則禁止(許可制)」という時代もあったのです。

 そんな状態をある程度克服したことで,現在の株式会社や証券取引市場の発展があります。
 いろいろな制度や規制を整備して,それを守るようにしていったということです。

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 「会計の信頼性」を確保するために必要な制度は,おもにつぎの3つです。

 1.「何が正しい会計か」を定義する・・・会計のルールの整備
 2.「会計が正しいかどうか」をチェックするしくみ
   ・・・経営者(会社)がつくった帳簿を第三者がチェックする
 3.「不適切な会計」「粉飾決算」に対するペナルティ


 1.については省略します。
 
 2.については「監査役」「会計監査」という制度があります。
 会計・決算というのは経営者(社長)の責任で行います。

 一定規模以上の会社の多くでは「監査役」という役職が置かれています。監査役には経営陣である取締役などとは別の立場から(経営を直接行わない),会計・決算が適正であるかどうかチェックすることになっています。

 それ以上に重視されるのが,会計監査人による会計監査です。公認会計士という資格を持った専門家が会社の帳簿をチェックして,問題がなければ「問題なし」という証明を出す。上場企業(株式市場でその株式が広く取引される会社)などの大企業では,このチェックが義務付けられています。

 あと最近は「社外取締役」というのも,「チェック機能」として話題になります。その会社やグループ会社とは関わりを持ってこなかった人(その社員などではなかった人)を,取締役(会)の一員にするということ。社外取締役には「しがらみ」のない立場から,経営をチェックすることが求められます。

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 このような「チェックのしくみ」があっても,粉飾決算は起こっています。

 「粉飾」を防ぐことは,原理的に非常にむずかしいのです。

 決算は,会社で絶大な権限を持つ社長(経営者)の指揮のもとで行われます。個々の担当者も,それなりの権限を持っていますが,最終的には社長の指示に従います。

 決算とは「経営者の成績表」です。
 ということは,社長は自分の成績表を,部下を指揮して自分でつくっているようなもの。
 つまり「成績をじっさいよりも良く見せたい」と思ったとき,それが可能な立場にあるのです。

 でも,監査役や公認会計士のチェックがあるのでは?と思うかもしれません。

 しかし,監査役のチェック機能にはおおいに限界があります。
 大きな会社の会計は,複雑で専門的ですので,しっかりとチェックするには高度の専門知識と,多くの人手(スタッフ)が必要です。しかしたいていの監査役には,そのような専門性や人手がありません。監査役には,ごくわずかの部下・スタッフしかないのがふつうです。

 それから, 監査役のほとんどは事実上は経営者に任命されて監査役になったのです。会社で社長の部下だった人も少なくありません(たとえば,監査役になるまえはその会社の部長だった,とか)。そこで法的には社長をチェックできる立場でも,どうしても遠慮してしまう。 

 本来,監査役は株主総会で選任されます(取締役と同じ)。でも「この人を監査役にしたい」ということを株主総会にはかる議案は,経営者側で作成します。その議案作成を社長は指揮しているので,監査役は事実上社長に選ばれた立場にあるわけです。

 そしてそれは「社長は,自分の成績表をチェックする人を,自分で任命している」ということでもあります。
  
 少し異なる面もありますが,このような「限界」は社外取締役にもおおむね当てはまります。

 では公認会計士のチェックはどうか?
 公認会計士には専門性はあるし,たいていの大企業は大手の会計事務所(監査法人)によって組織だった監査を受けます。ならば問題ないのでは?

 しかし,公認会計士というのは,監査を受ける会社自身が雇うのです。会社が雇って,報酬を会計士に支払う。どの公認会計士に依頼するかの事実上の決定権は,社長にあります。

 ということは,社長は「自分の成績表をチェックする専門家を自分で雇っている」ということです。

 以上をまとめると,会社の社長は「自分の成績表を自分の指揮で作成し,それをチェックする監査役や会計士を自分で任命したり雇ったりしている」ということです。そういう制度になっているのです。
 
 ということは,決算に関して社長はその気になれば,相当な不正ができるのではないか?
 
 学校の成績表でいえば,生徒が自分でテストを採点して,自分で通信簿を記入して,それを言うことを聞いてくれるお友達に確認してもって・・・というやり方をしている。そういう通信簿を親御さんは信用しないでしょう。でも,会社の決算も原理的には似たかたちでつくられているのです。

 とにかく,私たちが知っておいていいのは,「粉飾決算を防ぐ制度というのは,じつは非常にぜい弱だ」ということです。経営者をチェックするというのは,口でいうほど簡単ではありません。

 そして,このような「ぜい弱」性を十分に乗りこえる運営のノウハウは,まだ開発されていないのです。
 いろいろな改善策が打ち出されてはいます。たとえば「社外取締役」の役割強化や近年の会社法における「委員会設置会社」(説明は省略)などはそうです。でも,根本的にな解決には程遠い。

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 それでも,現在の企業会計や株式市場がどうにか機能しているのは,多くの経営者が自重しているからです。粉飾決算の重大性を自覚しているのです。それに,たいていの人には常識や良心もある。

 そして,粉飾決算に手を染めることのリスクも,世慣れた人たちである以上,わかっています。
 粉飾決算をしたら(指揮したり,関与したりすれば),いつかは何らかのかたちでバレる。多くの場合,内部告発によって,世間にわかってしまう。

 そうなれば地位を失うだけでなく,自社の株価が下がり,株主から訴えられるかもしれない。訴訟で負ければばく大な損害賠償責任を負うかもしれない。逮捕されて刑事罰を受ける可能性もある。

 実際に,そのような例もあります。上記の3.「粉飾に対するペナルティ」です。

 ライブドアの当時の経営者・ホリエモンさんは,粉飾決算による証券取引法違反で2006年に逮捕されました。その後有罪となり,刑務所に入りました(今は刑期を終えて社会復帰され,また活躍していますね)。
 
 粉飾決算ではありませんが,西武鉄道で「有価証券報告書の虚偽記載」という問題が2005年に発覚し,西武グループのトップだった堤義明氏が証券取引法違反で有罪(執行猶予つき)となる事件もありました。

 これは,「有価証券報告書」という,決算などの会社に関するさまざまな情報が書かれた書面の一部に重大な虚偽(粉飾)があったというもの。この場合は,株主の構成(どのような人たちが株主であるか)に関することでした。西武鉄道の株主構成には上場会社として問題があったのですが,それをごまかしていたのです。

 そして,西武鉄道は上場廃止となったのでした。つまり,同社の株式は市場で取引されていたのに,それができなくなった。(その後西武グループは再編成され,グループ持ち株会社である西武ホールディングスが2014年に再上場)

 このように粉飾決算やそれに類することは「重罪」とされます。

 今回の東芝の件も,粉飾決算が歴代社長の指揮のもとで行われたことが事実なら(その状況証拠はあるわけです),社長の逮捕・有罪ということも,あっていいわけです。

 しかしもしも,そのような追求もとくにないまま,「東芝はガバナンス(経営チェックのしくみ)を強化して再出発します」みたいなことで終わってしまうとしたら? 大マスコミが「不適切会計」といってお茶をにごしているくらいですから,その可能性もあります。

 もしもそうなったら,日本の経済・社会に大きな悪い影響を残すでしょう。

 「これだけの粉飾決算をしても逮捕されないんだ」

 そういうメッセージを発することになるからです。
 海外の投資家からも,「日本はそうなんだ」とみられることになる。

 そして「これだけの粉飾をしても大丈夫だ」というメッセージを「我がこと」として受けとめるのは,日本の財界の中心を占めてきた伝統や権威のある大企業の経営者たちです。東芝はそのような大企業のひとつです。

 「ホリエモン(ベンチャー企業)や西武の堤さん(伝統の比較的浅い,新興の財閥)は逮捕されるけど,自分のところは大丈夫。権力が守ってくれる」――そんなメッセージをここでいう「権威ある大企業」の経営者は受けとめるはずです。だとしたら,その経営者たちは,まじめに誠実に決算書をつくることがバカらしくならないでしょうか?

 権力者どうしの慣れあい,ご都合主義――それを優先して「法の原理原則」はないがしろにする。

 そういう精神が今の日本の社会にしっかり生きていることを,今回の東芝の件は明らかにしてしまうかもしれません。そうならないことを祈ります。

 明日は終戦記念日なので考えてしまうのですが,大切にしなければいけない「原理原則」や「現実」よりも,自分たちの属する権力者のコミュニティを優先する発想は,戦争のときの指導者たちの精神ともつながるように思えます。「国家の利益よりも,陸軍・海軍の都合や雰囲気を優先する」という精神です。

(以上)
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