2016年12月28日 (水) | Edit |
今年のまとめのような記事を書きました。
タイトルの「一挙解決願望」ということは、これまでにも書いたのですが、ほかの素材とも合わせてまとめなおしたものです。

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これを何とかすれば、すっきりする?

私たちは、ときどき「問題を一挙に解決したい」という切実な思いにとらわれます。「これを何とかすれば」というポイントさえ片付ければ、すべてがすっきりする、と思い込む。いわば「一挙解決願望」です(筆者の造語)。

たとえば「会社を辞めればすっきりする」「この人と別れれば自由になれる」と考える。

でもたいていは、会社を辞めても、配偶者と別れても一挙解決とはいかないのです。むしろ、辞めたり別れたりしたことで、経済的問題などの、新たな苦しみを抱えることになったりする。

辞めたり別れたりする前に、すべきことはないでしょうか? 会社で不満があるなら、プライベートを充実する、会社での人間関係を少しでも修復するなど、劇的ではないけど現実的な対処を重ねる、というやり方もあります。

昨年(2016年)6月、イギリスでは「EU離脱」を国民投票によって決めました。

移民さえいなければ、EUのさまざまな縛りさえなければ、いろんなことがよくなるはずだ。離脱してすっきりしよう……。イギリス国民のあいだでは、一挙解決願望が大きな力を持っているのです。

昨年11月のアメリカ大統領選挙の結果も、米国民の一挙解決願望がもたらしたといえます。

近年のグローバル化や格差の拡大などに不満を持つ人たちが、トランプ候補を支持した、とされます。トランプなら、問題を一挙に解決してくれるはずだ、と。


世界大戦をもたらした「一挙解決願望」 

さらに極端に「一挙解決」を求める方向に行かないか、という心配もあります。

第一次世界大戦や第二次世界大戦は、そのような願望が暴発した、最大の事例です。このときは指導者や国民が、深刻な失業や、国際関係での緊張のような、さまざまな問題を戦争によって、世界をリセットするような感じで一挙解決しようとしたのでした。

たとえば、第一次世界大戦(1914~1918)はこうでした――この大戦は、バルカン半島(ヨーロッパ東南部)での、オーストリアとその支配下にある諸民族、近隣のロシアの間の紛争がきっかけです。しかし大戦争になったのは、その紛争に介入したドイツによる暴挙のせいです。その暴挙に「一挙解決願望」が絡んでいます。

ドイツは、オーストリアを支援してバルカン半島の問題に介入する一方で、長年対立関係にあった隣国のフランスを大軍で攻撃したのです。そして、「バルカン方面で戦う間にフランスに攻められないよう、先にフランスを攻撃しよう」と考えた。それで大きな戦争になっても構わない……。ドイツによるフランス侵攻をうけてイギリスはドイツに宣戦布告し、大戦がはじまりました。

当時のドイツ人には、つよい「一挙解決願望」がありました。

ドイツは1800年代後半に急速に発展し、その産業や軍事力はヨーロッパ最大となりました。しかし、植民地の獲得では先に発展したイギリスやフランスに遅れをとり、国際社会での地位は今ひとつ。ドイツ人はそれに苛立っていました。戦争に勝利すれば英仏中心の国際秩序を一挙にリセットできる。ドイツの指導者はそう考え、勝負に出たのです。
(木村靖二『第一次世界大戦』ちくま新書などによる)

しかし結局、英仏およびアメリカの陣営に敗れました。第一次世界大戦の結果、国際秩序はドイツに一層不利になりました。さらに大恐慌(世界的な大不況、1929~)以後は、失業や貧困が深刻化しました。

第二次世界大戦(1939~45)をひきおこした中心人物のヒトラーは、さまざまな問題を一挙に解決する新しいリーダーとして期待されたのです。


解決手段としての植民地

昭和の戦前期(第二次世界大戦前夜)の日本人も、当時の英米中心の国際秩序に反発していました。農村は貧しく、若者が都会に出ても仕事がない。

問題解決の手段として指導者が選んだのは、植民地の拡大です。植民地の資源や労働力を利用して、富や仕事を生み出す。国民の多くも、それを支持しました。

昭和戦前期の日本は、はげしい格差社会でした。人口の1%の最上位の高所得層が、全国民の所得の2割を占めていました(この「1%シェア」は、現代の日本だと1割ほど。(『週刊エコノミスト』2014年8月12日・19日号の記事による)

戦前を知る下村治という昔のエコノミストは、50年ほど前にこんな主旨のことを述べています。

「当時の社会問題の根底には、人びとに十分な富や職をいきわたらせることができない“人口過剰”の問題があった。当時の状況では、これを内部的な成長や福祉政策では解決できないと思われた。そこで資本主義を崩すことが解決だと思った人は社会主義のほうへ行き、領土を広げて植民地から富を得ることで解決しようとした人は軍国主義へ走った」
(原田泰『世相でたどる日本経済』日経ビジネス人文庫による)

そして、軍国主義が選択されたのです。地道に時間をかけて問題に取り組むのではなく、侵略戦争で一挙に解決しようとした。


「ポピュリズム」でいいのか?

最近の世界は、あちこちで一挙解決願望が大きくなっています。ひと昔以上前の世界では、この願望が力を持つのは、おもに発展途上国でした。貧しく・苦しい状況を一挙に変えてほしいという人びとの願いが、さまざまな革命やクーデターの背景となってきました。

しかし、近年はもっと発展した国ぐにで、一挙解決願望が力を持っています。昨年のイギリスとアメリカでの出来事は、それを明確にしました。

この現象は、マスコミでは「ポピュリズム(大衆迎合主義)の台頭」などといわれます。そこには「政治家が無知な国民を煽っている」というニュアンスがあります。

しかし、何かちがうというか、足りないように思います。それより、この現象は「人の心の、よくある基本的な傾向と深く結びついている」という点に、もっと注目すべきではないか。

そのような「傾向」の中心にあるのが、ここでいう「一挙解決願望」です。そういう願望が、人の行動に大きな影響をあたえることがある。

「無知な大衆が煽られている」という枠組みだけでものごとをみても、ピンときません。まさに「上から目線」になってしまって、その現場にいる人たちの感覚がわからない。

一挙解決願望を抱く人たちが、何に不満を感じているかも、「グローバリゼーションに取り残された人たちの怒り」みたいな調子で、簡単に決めつけないほうがいいでしょう。経済はたしかに関係しているのでしょうが、それだけではないかもしれません。

私たちが、辞めたい、別れたい、それですっきりしたいと思うのだって、簡単には説明できないことも多いです。説明しにくいことを、なんとか感じとろうとする姿勢が今は必要に思えます。「これは、ポピュリズムだ」などとまとめてしまうと、感じとることのさまたげになる。

ぜひとも、「一挙解決願望にご用心」ということを、忘れないようにしましょう。個人の小さなことでも、世界情勢についても。
まずは、自分自身がその願望にとらわれないように。
そして世の中でそのような「願望」がどうして力を持っているのか、決めつけることなく、あらためて自分の心のうちや現実に問いかけてみよう。来年はとくにそれが大事な年になるのでは?

(以上)
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2016年12月27日 (火) | Edit |
昨日(26日)はSMAPの番組「スマスマ」が最終回だったので、今朝からワイドショーでずいぶん取り上げられていました。
私は、今日からすでに年末年始の休みで家にいて、それを結構みました。

SMAPのみなさん、お疲れさまでした。所属事務所の「お家騒動」に巻き込まれてこんなことになってしまった、と私はとらえています。事務所のオーナー経営者は、自分の会社のドル箱を、自分で台無しにするようなことをしてしまった。
それはそれとして…

SMAP解散に関し、私がとくに印象に残っているコメントに、秋頃にX JAPANのYOSHIKI(ヨシキ)さんが言っていたことがあります。主演するCMについての取材で、記者たちにSMAP解散のことを訊かれての発言。

みなさん、まだ生きてますから。 

YOSHIKIさんのバンドも1997年に解散し、その後メンバー1人が亡くなっています。2007年に再結成しましたが、また1人が亡くなっている。

SMAPには再び全員で集まる可能性が残っています。世の中にはフルメンバーで再結成したくても、もうどうしようもないグループがいくつもある。何ごとも、生きていればこそ。 

老スマ

      老スマ。

(以上)
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