2013年06月05日 (水) | Edit |
折りたたみイス

 6月3日の記事で,ベランダに折りたたみのイスや小テーブルを出して,ささやかな「ビアガーデン」をした,という話をしました。
 そして昨日,このときのイス(上の写真)について,ある方から《そんなにおしゃれな折りたたみの椅子があるんですね。》というコメントをいただきました。そこで,ちょっと考えたこと。

 この言葉には,「折りたたみイスというのは,つまらないものだ」という前提があると思います。たしかに,そのとおりです。よくみかける「パイプイス」のような折りたたみイスは,デザインとしてはちょっともの足りない。だから,「こういうのもあるんですね」と。

 じつは,折りたたみイスも歴史をさかのぼると,ステキなものがあったのです。

 ウチの折りたたみイスは,90年ほど前のデザイン(アメリカ製)だそうです。あちらではスタジアムなどの公共施設でかなり使われてきたとのこと。それが今も製造・販売されているのです。デザイナーは不詳。
 名称は一応ですが,「ウッドシートフォールディングチェア」といいます(『椅子の辞典』白夜書房による)。私は,7年前に都内の雑貨・インテリアの店で,1脚1万円くらいで買いました。

 このイスは折りたたむむとフラットになって,厚さは4㎝ほど。かなり薄いです。フラットだと,収納しやすいです。どこかに立て掛けても,見栄えがいい。

たたんだ状態

 折りたたみイスというものがいつ生まれたのか,調べたことはないのですが,このイスは「工業製品としての折りたたみイス」の初期のもののひとつだと思います。イスの大量生産というのが,おもに20世紀以降のことだからです。
 90年も前に,このような「グッドデザイン」な折りたたみイスが,すでにつくられていたのです。

 ただ,この90年前の折りたたみイスは,今の「パイプイス」とは,デザインの感じがちょっとちがいます。見た目だけでなく,素材や折りたたみ方の機構などもちがいます。ずっしりした鉄と木でできていますし,脚が開く方向もちがう(くわしい説明は省略)。
                        *

 「現在の折りたたみイスの原型」といわれるイスが,じつはあります。1969年にイタリアのジャン・カルロ・ピレッティというデザイナーによってつくられた「プリアチェア」です(写真は島崎信ほか『近代椅子学事始』ワールドフォトプレスより)。

プリアチェア

 この画像では伝えきれませんが,シャープでとってもカッコいいです。折りたたむと薄さ2.5㎝のフラットになります。

 現在普及している折りたたみイスは,このブリアチェアを直接・間接に真似たものです。
 そして,真似を重ねるうちに,たいていはややダラけた・つまらないものができていきました。元祖であるプリアチェアの凛とした美しさは失われていったのです。
 
 歴史というのは,こういう経過をたどることがあります。
 つまり,初期の・開拓者の時代には,気合の入った良いものができていたのに,それが普及し,大衆化するにつれて,つまらなくなっていく。初期の時代にそれを生み出した人(たち)の,創造性や熱意が受け継がれていかないのです。
 「ブリアチェアから,現在のありふれたパイプイスへ」という歴史はまさにそうです。

 いつも歴史がそんなふうだとはいいません。
 初期の「今イチ」なものが,発展して良くなっていく歴史というのもあるでしょう。

 でも,「だんだんつまらなくなっていく歴史」というのもあるわけです。
 折りたたみイスの歴史は,それをみやすいかたちで示す,一例です。

(以上)
関連記事
スポンサーサイト
テーマ:建築デザイン
ジャンル:学問・文化・芸術
コメント
この記事へのコメント
「創造性や熱意が受け継がれていかない」という言葉、その通りだなと思う事案がいくつか自分の頭にも浮んできました。
できるならば、当初のそうした思いをうけつぎながら、現代という要素を融合させ、いい意味での『洗練』というものが感じられるようなものがあふれるといいのではないかなと自分なりに考えました。
一万円とは正直驚きましたが、やはりそうであるべき理由もあるわけですね。
僕自身、家具や道具などのデザインを感じるものが好きなのでとても参考にもなりました。
ありがとうございました。
2013/06/05(Wed) 14:25 | URL  | hajime #-[ 編集]
Re: タイトルなし
 コメントありがとうございます。家具や道具などのデザインって,みていると面白いですよね。おっしゃるように,今の時代だったら,いいかんじで洗練されたもの,見て・使って気持ちいいものがもっとあふれていいはずです。たしかにそういうふうに「良く」なってもいますが,まだまだ,という面もある。
 折りたたみイスが1万円というのは,たしかに安くないです。でも,丁寧に使えばたぶん20年は使えるはずなので,元はとれるとも思っています。家具などのモノの話は,また何度も書きますので,おつきあいいただければうれしいです。
 
2013/06/05(Wed) 22:20 | URL  | そういち #-[ 編集]
こんにちは。
この度、部屋に一人掛けの椅子が欲しく、色々と検討していたところ、以前そういちさんが折りたたみ椅子について書かれていたのを思い出し訪問させていただきました。
折りたたみ椅子やスツール、オットマンなど考え中ですが参考になりました。ありがとうございました。
2017/02/06(Mon) 18:50 | URL  | hajime #-[ 編集]
hajimeさんへ
コメント、ありがとうございます。
当ブログで椅子に関する記事ですと、天童木工製のローコストチェアというのを紹介した記事などもあります(ブログ内検索で「天童木工」で検索すると出てきます)。天童木工というメーカーは、決して安くはないですが、おすすめです。あとは「カリモク」とか「マルニ木工」とか。無印良品も、ややもの足りないところもあるけど、買いやすいし悪くないかもしれません。どれもネットでみれます。ほかに欧米のものもあるわけですが、日本のメーカーのものは、私たちの部屋に合いやすく、使いやすい傾向があります。良い椅子は、確実に毎日の暮らしを気持ち良くしてくれます。ぜひ良い椅子を手にいれてください。
2017/02/07(Tue) 07:20 | URL  | そういち #-[ 編集]
こんばんは。
天童木工の記事もあったんですね。
ストーブやライト、素敵な製品に囲まれていいですね。
私も自分の気に入ったもので毎日が過ごせたらどれほど幸せかと思いながら、日々少しずつお気に入りのものを見つけ生活の一部にしていこうと努力しております。

私は愛知県出身なのでカリモクにはなじみがあり、山形出身の友人がいるので天童木工も話には聞いておりました。バタフライスツールはとても有名ですね。マルニ木工も高品質なものをつくっていますね。また一つ知識が増えました。

そういちさんのお気に入りの品をまた紹介していただけると嬉しいです。そのときにはまた参考にさせていただきます。
2017/02/20(Mon) 02:39 | URL  | hajime #-[ 編集]
hajimeさんへ
コメント、ありがとうございます。気に入ったものを毎日使うというのは、やはり気持ちのいいことですよね。
私もそう思って、若いころから転居や結婚のときなどを機に、少しづつ自分なりに選んで家具などを買ってきました。そのように意識して選んだものは、10年20年と使っています。でもそのジャンルのモノとしてすごく高いわけでもないので、お買い得だったと思います。最近「好きなモノ」の記事は書いてないですが、いずれまた。

あと、イスということだと、国産以外では、月並みかもしれませんが、やっぱり北欧家具は日本の部屋にもなじみやすいですね。超定番のヤコブセンの「セブンチェア」とか、現物をご覧になると「やっぱりいいな」と思われるかもしれません。(公共施設などの街角でもたまにみかけます。でも類似品も多い)
20年近く前に私が初めて買った(今も使っている)、いわゆる「名作イス」はこれでした。そんなにたくさんのイスを持てるわけでもないので、「超定番」というのは、やはり「アリ」ではないかと思って買ったのでした。そして品物が届いたとき「やっぱりちゃんとしたイスはいいな」としみじみ思いました。

小中学校あるいは高校の授業で、こういう古典的な良いイスに触れる授業があるといい、と思います。
2017/02/21(Tue) 06:22 | URL  | そういち #-[ 編集]
コメントを投稿
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック