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2013年07月31日 (水) | Edit |
 7月28日の記事は,大正から昭和のはじめに活躍した実業家・大原孫三郎の「四百文字の偉人伝」でした。
 大原は,美術館・研究所・病院の創設,孤児院の支援,自らが経営する倉敷紡績での労働条件の改善など,さまざまな社会事業や福祉に取り組んだことで知られています。

 この大原との対比で,明治~大正に活躍した実業家・渋沢栄一が語られることがあります。

 日本の企業経営の歴史のなかでは,渋沢のほうが大原よりもはるかに「大物」です。
 渋沢は下記の「四百文字の偉人伝」で述べるように,500社もの企業の創設に関わり,日本の資本主義の基礎を築いた人物です。

 大原と渋沢が対比されるのは,渋沢もまた社会事業・公益事業に熱心に取り組んだからです。
 下記の「四百文字の偉人伝」では割愛しましたが,渋沢がかかわった,福祉,医療,教育,国際交流等々の公益事業の数は,600にもなるといわれます。
 さきほど述べた営利的な事業の創設数(500)よりも多いくらいです。

 今日は,そんな渋沢の「四百文字の偉人伝」を。古今東西のさまざまな偉人を400文字程度で紹介するシリーズ。
 

渋沢栄一(しぶさわ・えいいち)

日本史上最高の起業家

 幕末のこと。若き渋沢栄一(1840~1931)は,幕府の欧州視察の一行に加わりました(1867年)。
 彼は,もともとは欧米諸国に反発していました。しかし,ヨーロッパの進んだ文化に感動し,「欧米からトコトン学ぶべきだ」という考えに変わりました。
 明治になって,渋沢は実業家となり,「社会に必要なさまざまな会社の設立」に尽力しました。
 銀行,鉄道,保険,郵船,紡績,建設,電力,ホテル,造船,化学……彼が設立に関わった会社はおよそ500社。その多くが大企業となり,今も続いています。
 しかし,彼は「それらの会社を支配して自分の財閥をつくること」はしませんでした。
 新会社が軌道に乗ると人にまかせ,つぎの会社の立ち上げに移る――それをくり返しました。
 「財力や権力の拡大」ではなく,「立ち上げた事業が発展し,社会をつくっていく」のをみるのが楽しかったのです。
 そんなスケールの大きな起業家がいたのです。

渋沢研究会編『新時代の創造 公益の追求者・渋沢栄一』(山川出版社,1999)による。

【渋沢栄一】
日本の資本主義の基礎を築いた明治~大正の実業家。設立に関与した会社の例:第一勧銀,国鉄,東京海上火災,日本郵船,東洋紡,王子製紙,清水建設,東京電力,帝国ホテル……
1840年(天保十一)2月13日生まれ 1931年(昭和6)11月11日没

                        *

 10年くらい前,大原孫三郎に興味をもって,自分なりに本を集めたり,彼の地元の倉敷に行って「現地」をみたりした時期があります。

 大原については,当時はまだ読みやすい伝記が書かれていませんでした。
 本格的な評伝とまではいかなくても,大原のことをわかりやすく紹介した,まとまった文章を自分で書きたいものだ,と思っていました。でも,結局できませんでした。短い文章を書いて,仲間うちでみせたりはしましたが…

 当時の私が大原にひかれたのは,「彼の取り組んだことが,今の自分たちの関心と重なる部分がある」と感じたからです。

 大原が活躍した大正時代と,今の私たちの平成の時代は,歴史のなかの立ち位置として似たところがあると。

 大正時代というのは,明治時代からの「近代化」,つまり近代社会としての基礎的なインフラを整備することがある程度かたちになって,日本が「列強」のひとつになった時期です。

 政府の組織や憲法などの法典,全国的な鉄道網,銀行などの金融機関,さまざまな分野の工場,学校制度,郵便や電信のネットワーク…そういったものの基礎が,だいたい整ったわけです。

 渋沢栄一は,この動きに(とくに経済面で)貢献した最大の人物のひとりです。

 そして,大正時代は,明治に建設されたインフラ・基礎に立って,一部の恵まれた人たちが,その先を行くさまざまな社会実験を行った時代でした。

 それは,「基礎の基礎」ではなく,「もっときめ細かい社会的なサービス」といえる分野での実験です。

 より健康に文化的に人びとが生きるためのさまざまな取り組み。
 「文化的」などというのは,従来は一部の恵まれた人たちだけの特権でした。
 それをより広い範囲の人たちに。

 大原孫三郎は,そのような大正時代の「社会実験」において,最もすぐれた仕事をしたひとりです。

 美術館や,より良い病院や,社会問題を研究する研究所をつくったり,というのは「基礎の基礎とはちがう,きめ細かい社会のサービス」をつくっているわけです。美術館がなくたって,人は生きられるのですから。

 こういう感じが,私は現代に通じると思ったのです。
 高度成長を成し遂げて,経済大国になった日本。
 衣食には不自由しなくなった私たち。
 「その先の欲求」もあるはずだけど,社会におけるサービスのおもな生産者である政府や大企業は,それに十分にこたえられていない。
 10年前は,今以上にそうでした。

 そこで,NPOなどの民間による,新しい社会的サービスの創出ということが,当時(10年前)は,今以上に新鮮な話題でした。

 大原孫三郎は,そのようなNPO的な世界の,近代日本における「最高峰」だと思えました。
 渋沢栄一は偉大だけど,今の自分たちの関心により即しているのは,大原孫三郎ではないか。
 そんなふうに,思ったのです。

 今回はここまで。

                         *

「四百文字の偉人伝」は,古今東西のさまざまな偉人を,400文字ほどで紹介するシリーズ。このブログでときどき載せています。(カテゴリー:四百文字の偉人伝
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(以上)
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テーマ:歴史
ジャンル:学問・文化・芸術
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