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2013年10月31日 (木) | Edit |
 前々回(10月27日)の記事で,「近代社会の原理」ということを述べました。
 ある読者の方の質問――「信じることが正しいかどうかを知るにはどうしたらいいのか?」――を受けて,社会の問題を考えるための「基準」のようなものがあるのでは,と述べたのです。

 以下,その記事からの引用です。

 《……だいじなのは,今の社会を成り立たせている最も重要で基本的なルールや原則は何だろうか,ということ。……
 その「重要で基本的なルール」とは,民主主義の政治体制や,法に基づいて人権が守られること(法の支配),資本による経済活動を含め,人びとの自由な社会的活動を認めること(自由主義)などではないかと思います。……

 私はそれらを「近代社会の原理」と呼びます。
 ヒトラーの体制もソ連の社会主義も,このような「近代社会の原理」からの逸脱の上に成り立っている,と私は思います。》

 ***

 今回は,以上の「近代社会の原理」のうち,「民主主義」ということについて考えてみます。
 そもそも,「民主主義」って何?
 民主主義を定義するとしたら?

 私が考える「民主主義の定義」は,こうです。

 政治的な意思決定に対し,それに従う人々(国民,民衆)が参加できること

 これは,「民主政」「民主制」といってもいいです。
 民主政(制)とは,民主主義に基づく政治の体制・システムのことです。

 政治的な意思決定に従う国民や民衆が,その意思決定に直接参加できるなら「直接民主制」です。

 しかし,規模の大きな現代の国家では,それはむずかしい。そこで,「政治的な意思決定を行う代表者を,国民が選ぶ(選挙する)」という間接的なかたちで,国民は政治的な意思決定に参加することになります。これが「間接民主制」です。

 今の日本なら,国会議員を国民が選び,国会で議員たちが話しあって,政治のことを決めています。そのような政治的な決定は,多くの場合「法律」というかたちをとります。その法律=政治的意思決定に,私たち国民も従うわけです。

 では,「民主主義(民主制)」の対義語は何か?

 つまり,国民が政治的な意思決定に参加できず,少数の権力者がすべてを決める政治のしくみ,ということです。これは「独裁」とか「専制」といいます。

 以上の説明は,政治学者の滝村隆一さんの著作(『国家論大綱』勁草書房,など)によるものです。
 
 *** 

 以上,民主主義の一番大事な点は「政治的な意思決定への参加」だ,といっています。
 それが民主主義の本質だ,ということ。
 本質というのは,「それなくしてはそのモノ・コトが成り立たない,重要な部分」ということ。
 
 なんだかつまらない話だと思う人もいるかもしれません。

 でも,やっぱり大事なことを押さえているのだと思います。
 世の中の民主主義にかんする議論では,以上の「民主主義の本質」を忘れたり,あいまいにしているものが少なくありません。

 リンカーンの有名な言葉で「人民の,人民による,人民のための政治」というのがありますね。
 これは,ここで述べている「民主主義」の定義とも重なる内容です。
 「人民の,人民による」というのは,「人民が政治的な意思決定に参加できる」ということです。

 しかし,世の中には「最も大事なのは〈人民のための〉という部分であって,そこが守られていれば,〈人民の,人民による〉という部分は,さほど重要ではないのではないか」という主張もあるのです。

 「人々を幸せにする,よい政治が民主主義」というわけです。

 「国民・民衆が主人公である政治が民主主義」といった言い方も,ときどきみかけます。
 これも,「よい政治が民主主義」というのに近い面があると思います。
 「国民が主人公である」という部分に「国民が意思決定に参加できる」というニュアンスもありますが,ちょっとあいまいな感じがするのです。

 「政治的な意思決定への参加」という部分をあいまいにして民主主義を論じていると,議論はまちがった方向に行きやすいと思います。

 「国民のための政治が民主主義」というのは,独裁や専制を正当化するときに,よく使われる論法です。
 多くの独裁体制では,「この体制は,すぐれた指導者が人民のための政治をしている,だから最高に人民を大切にしている最高の民主主義だ」といった主張がなされます。

 それにしても,「国民が政治的な意思決定に参加できることが民主主義」なんて,なんだか当たり前すぎて,つまらない感じがしますよね……もっと味わいや感動のある言い方はないものか,という人がいてもしかたないです。

 でも,「こういう一見つまらない,身もふたもない感じの定義のなかに,きわめて重要なことが含まれている」と私は思っています。

 「国民の政治的な意思決定への参加」が民主主義。
 これは一応よしとしましょう。
 そして,このような民主主義には,いろんな面倒くさいことや問題があるわけです。
 次回以降は,それを述べていきます。

(以上)
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コメント
この記事へのコメント
先生こんばんは!!

ソ連とか中国は王制→革命→社会主義なので、指導者も国民も民主主義とかあんまり知らなかったんだろうなーと思ってました。
たいてい社会主義って革命がおこるほどにどーしょーもない所で始まるわけで。
でもヒトラーを選んだのは民主主義でしょ。

ヒトラーを選んだのは民主主義だけど、
ヒトラーは民主主義を逸脱した。
ということですか?

そもそも間接民主制には限界がありますよね。
てゆーか、多数決って正義なの?
学級会だと、皆が納得するまで議論してたら時間かかってしゃーないから多数決するけど、たいてい誰かが涙をのんでるわけで。

社会主義国に独裁やそれに近い体制の国が多いことは事実だけど、民主主義を名乗ってない社会主義国って聞いたことないです。国民の意見が反映されているかって意味では怪しいものですが。

民主主義を社会主義の対義語と思ってる人が意外に多くて、なんだかなーと思います。

2013/10/31(Thu) 21:31 | URL  | ピピネラ #eR1ha.nA[ 編集]

こんばんは とても大事な話だと思います

ナチスのホロコーストは批判されてます

リンカーンの民主浄化は無視されてます

その違いは何なんでしょか

2013/10/31(Thu) 23:06 | URL  | shin36a #-[ 編集]
ピピネラさんへ
 コメントありがとうございます。(「先生」というのはやめてくださいね…)

 ヒトラーのことは,「民主主義によって,つまり国民自身の意思によって民主主義を放棄する」という典型例だと思います。
 人間というのは,たまにそういうことをするのではないでしょうか。

 ヒトラーを選んだのには「世の中をよくしてくれる」という期待がありましたが,それどころか「リスクや問題があるかもしれないけど,目先の欲望でそれを選んでしまう」ということだってあります。とくに個人のレベルではよくあることです。健康を害する,仕事のさまたげになる,経済的に大きな損となる,としてもある行動を行ってしまう。それはほかでもない,自分の意志で選んでいるのです。

 国民のような集団でも,ときには害悪や破滅につながる選択を,民主主義的に行うことはあり得るはずです。

 だから,そこに歯止めをかける考え方があります。
 それが「立憲主義」。憲法という最高規範によって,権力の暴走をおさえようという考え方です。これは,国家権力を規制するのが本来のねらいですが,「民主主義によって暴走する国家権力」をも規制する面があります。このあたり,記事のなかでまた述べたいと思います。

 「間接民主主義の限界」「多数決って正義なの?たいてい誰かが涙をのんでいる」……このあたりも,これからまさに記事で述べようと思っているところです。たいへん重要な視点だと思います。まずは「多数決」のことから近日中に。

 おっしゃるように,ひどい独裁国家だって「民主主義」を名乗っています。ほかには「民主主義を超える,超民主主義的体制」を名乗っていることがあるくらい。
 つまり,「民主主義」というコトバは,「正義」「正統」を主張するための呪文みたいなもの。
 だからこそ,その内容・定義ははっきりさせないといけないのだと思います。
2013/11/01(Fri) 07:20 | URL  | そういち #-[ 編集]
shin36aさんへ
 コメントありがとうございます。
 ちょっと理屈っぽい話なので退屈ではないかと気にしていましたが,「とても大事な話」といって頂き,うれしいです。

 shin36aさんの問いかけに対する答えとしては,ややズレてしまうかもしれませんが,リンカーンにせよ,アメリカ建国の父たちにせよ,あのへんのアメリカの民主主義の基礎をつくった発想や仕事ぶりには,私たちはおおいに学ぶところがあると思います。
 でも,日本で政治や知的な議論に興味のある人たちのあいだでは,それほど関心をもたれていないように思います。「反米」「嫌米」ということも,その背景にあるでしょう。

 一方,ナチスのホロコーストのような行為は,多少実態を知れば,万人にとって「悪」だと理解できることだと思います。評価がしやすいのです。
 これに対し,「民主主義」の問題は,ずっと理解や評価がむずかしいと思います。
 答えになっているかわかりませんが……
 
2013/11/01(Fri) 07:35 | URL  | そういち #-[ 編集]
 そして,このような民主主義には,いろんな面倒くさいことや問題があるわけです。

 民主主義は普段の努力がないと維持していくのが難しい代物だと思います。しかしこれに変わるものがない以上希求してくしかないでしょうね。いろいろ教えてください。楽しみにしています。
2013/11/01(Fri) 07:40 | URL  | かずゆき #-[ 編集]
かずゆきさんへ
 コメントありがとうございます。
 たしかに民主主義は,いろいろ問題があっても,これに代わるものはないのでしょう。民主主義以外の,私が「近代社会の原理」と呼ぶもの……法の支配,自由主義,個人主義についても同じようなことがいえると思っています。また,おつきあいいただければ。
2013/11/02(Sat) 11:24 | URL  | そういち #-[ 編集]
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