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2014年01月19日 (日) | Edit |
 「GDPでみる経済入門」のシリーズを,もう一度最初からやり直します。
 このブログをはじめた頃にスタートしたのですが,あちこち寄り道しているうちに,当初予定していた「系統的な展開」がどこかへいってしまいました。そこで仕切り直し。

 経済入門の本や文章は山ほどあります。
 「世界一やさしい」「高校生でもわかる」とうたっている本も多いですが,ほんとうに「やさしい」「わかる」というものを私はめったにみたことがありません。ほとんどは,「やはりむずかしい」か,イラストやあいまいなたとえ話で「ごまかしている」ように,私には思えます(ただし「初心者には少々むずかしくても,内容のしっかりした良い本」というのはあります)。

 「経済入門」というのは,それだけむずかしいということです。

 この数年,「やさしい経済入門」を書こうとトライして,すでに何百ページかの草稿を書いているのですが,その「むずかしさ」を痛感しています。

 この「GDPでみる経済入門」の方針は,とにかく「欲張らない」こと。
 経済について一応の常識的な理解や見方をするための,入門的な知識を述べていく。
 「全体」のほんの一部のことだけでもいい。多くを網羅しようとしない。
 ほんの「さわり」の知識でいい。
 「最新ニュースがわかる」とか「常識を覆すものの見方」などは,得られなくていい。
 
 それでも,丁寧に,ごまかさず,一定の体系性をもったかたちで「経済を理解するための知識」を述べていきたいと思います。

 その核になるのは,「マクロ経済学」です。
 「マクロ」というのは,「大きな視点でみた・全体の」ということ。
 マクロ経済学は,「国の経済を全体としてとらえる学問」です。現代の経済にかんする議論の,メインの領域といっていいです。

 「経済全体をとらえる」というのは,あたりまえのようにも思います。
 でも,じつは経済という大きな全体をとらえるのは,むずかしいです。私たちは経済をみるとき,小さな・個別的な現象を基準にものを考えがちです。そして,「個別」でみれば正しくても「全体」にあてはめるとまちがっている,ということが,経済ではしばしばあるのです(このへんは,本文で述べていきますので)。
 
 このシリーズの表題にもある「GDP」という概念は,マクロ経済学の基礎ともいえるものです。
 このあたりのことは,20世紀の経済学がきりひらいた,偉大な遺産。
 その偉大な「遺産」の初歩の初歩,つまり「幼稚園」レベルを,述べていきたいと思います。

 それではものたりない?

 でも,偉大な学問・科学の遺産の「幼稚園レベル」というのは,しっかり自分のものにすれば,かなり役に立つはずです。
 経済の未来をピタリと予測したり,すばらしい経済政策を考えたり,ということまでは難しいと思います。でも,巷にあふれている,経済にかんするいい加減な見解をうのみにはしなくなるはずです。あるいは,少しは自信を持って経済のニュースを見たり聞いたりできるはず。

 そんなささやかなレベルが,この「経済入門」の目標です。それでも,「世界をみる目」はかなり確かなものになるのではないかと思います。

 系統性(話のつながり・まとまり)を大事にしたいので,1回の記事がかなり長くなるかもしれませんが,よろしければぜひおつきあいを。


GDPとは「国全体の総買い物額」

国内総生産・GDP

 あなたは,「GDPとは何か」と聞かれて,自信を持って「わかっている」と言えますか?

 別の言いかたをすれば,「〈GDPとは何か〉を中学生に説明できるか?」ということです。私の友人たちに聞いてみると,「だいたいのことはわかっている」という人でも,「子どもに説明するとなると,ちょっと自信がない」と言います。

 GDPというのは,英語の頭文字をとった言葉です。日本語では「国内総生産」。
 しかし,「コクナイソウセイサン」というのは長くて言いにくい。そこで英語の

 ross(グロス=英語で「全体の」「総」と言う意味)
 omestic(ドメスティック=国内の)
 roduct(プロダクト=生産)

の頭文字をとったGDPという方を,よく使います。


「総買い物額」のイメージ

 GDPとは,一言でいうと「国全体の,みんなの1年間の買い物の総額」のことです。

 つまり,みなさんがスーパーで食料品を買ったり,デパートで服や靴を買ったり,ローンを組んで自動車やマンションを買ったり,美容院に行ったり,旅行で電車に乗ったりホテルに泊まったり……そんなふうにして,日本じゅうで1年間に使った金額です。
 この「買い物額」の合計(総買い物額)がGDPです。

 「四半期(3ヶ月)」のGDPというのもありますが,より一般的なのは「1年間」でみた数字です(この本では「GDP」というときは,とくに断らないかぎり1年間のGDPです)。

 「何を買うか」は,モノを買う場合とサービスを買う場合があります。食料品や洋服や自動車やマンションを買うのは,モノを買うこと。髪を切ってもらう,電車に乗る,ホテルに泊まる,というのはサービスを買っています。理容のサービス,輸送のサービス,宿泊場所の提供というサービスです。)

 「GDPは総買い物額である」というのは,うんと単純化した説明です。補足すべき点もあります。しかし,最初に入るときのイメージとしては,とりあえずこれでいいのです。


日本のGDPの額

ここで,問題です。

【問題】
現在(2010年度)の日本のGDPは,どれくらいだと思いますか?

予想
ア.5兆円 イ.20兆円 ウ.100兆円 エ.500兆円


***


 2010年度(2010年4月~2011年3月)の日本のGDPは,476兆円(475兆7578億円)です。

 最近数年間の日本のGDPの推移はこうです。

 2006年度  2007年度  2008年度  2009年度  2010年度
 511兆円   516兆円   492兆円   474兆円   476兆円

 ご覧のように,最近はやや減少傾向にあります。このような変動はありますが,だいたいの数字で「日本のGDPは480兆円」と憶えておけばいいでしょう。「480兆円」というのは,「500兆円まではいかないけど,450兆円よりは多い」というニュアンスです。あるいは,もっとざっくりと「400何十兆円(なんじゅっちょうえん)」でもいいです。

 「日本のGDPは480兆円」というのは,「日本の人口は1億2800万人(2010年現在)→1億3千万人」という数字とともに,ぜひ知っておいてほしい数字です。

日本経済を知る最重要の数字
 ・日本の人口 1億3千万人
 ・日本のGDP 480兆円


 「正確な数字」にこだわらず,このドンブリの数字でおぼえるのがコツです。細かい数字は,使いこなせません。
 しかし,この「GDP480兆円」は,必ずしも「常識」にはなっていないようです。この問題を「経済の素人」を自認する大人に出してみると,何割かはまちがえるか,自信のなさそうな答えになります。


政府が算出する数字

 そもそも,GDPは,どうやってわかるのでしょうか?
 GDPは,政府が算出する統計数値です。しかし,政府が「すべての人の買い物を調べて合計している」わけではありません。

 そのかわり,政府はモノやサービスの売り手である企業に対して,売上などの状況を調査しています。各社の会計帳簿にもとづいたデータです。企業の売上は,結局はお客さんであるみなさんの買い物です。だから,そこからGDPがわかるのです。
 このほかにも,政府は国の経済や社会の様子をつかむため,つねにいろいろな統計調査を行っています。

 GDPは,企業の売上をはじめとするさまざまな調査のデータをもとに,政府の専門家がいろいろな計算をして出した数字です。これには,たいへんな手間がかかります。だから,信頼できる数字を出すには,しっかりした政府や企業の組織が,社会に存在していることが必要です。


普及して数十年ほど

 GDPやそれと同類の統計数値(「GNP」「国民所得」など)が広く使われるようになったのは,この数十年ほどのことです。ほぼ第二次世界大戦後(1945年以降)といっていいでしょう。
 現代では,経済の問題について考える人は,誰もがGDPという数字をみるようになりました。

 GDPは,経済が発達し,政府の組織が整備され,経済や統計についての学問が進歩した結果,生まれた考え方なのです。

 「景気がいい・悪い」ということが,つねづね論じられます。「景気がいい」とは,みんなの買い物が活発になって,GDPが増える傾向にあることです。「景気が悪い(不況である)」とは,みんなの買い物が停滞して,GDPが減る傾向にあることです。

 「中国のGDPが,日本のGDPを追い抜いた」ことが近年話題になりました。それは,「GDPの大きさ」が,「国力」を測る最も重要なモノサシになっているからです。

 GDPは,少々とっつきにくくても,理解のしがいのある概念です。そこには,さまざまな知識の遺産や膨大な労力が詰まっています。GDPという数字を通して,経済や社会のいろんなものがみえてくるのです。


GDPとGNP

 ある程度以上の年齢の方なら,「以前はGDPではなく,GNP(国民総生産)という数字が使われていた」ことをご存じかもしれません。

 GNPは,gross national(ナショナル) productの略です。「ナショナル」は,「国民の」という意味です。これに対しGDPつまり gross domestic productの「ドメスティック」は,「国内の」という意味です。

 「国民の」と「国内の」は,どうちがうのか? 日本のGNPは,日本国民の経済活動を対象にした数字です。日本国民の経済活動なら国内での分だけでなく,海外での分もGNPの対象になります。具体的には,日本人や日本企業が海外で受け取った給料や預金の利子などの所得がGDPにはふくまれます。

 一方GDPは,日本の国内(地域内)での経済活動を対象にした数字です。国民の海外での活動分はふくみません。

 GDP+海外で国民が得た所得=GNP 

ということなのです。

 なお,GNPのことを,GNI(国民総所得)と呼ぶこともあります。同じ中身なのですが,名称を変えたものです。
昔は日本政府もマスコミもGNPを使っていましたが,90年代にGDPに切り替えました。欧米を中心に「GDPを使う」という流れになったので,それに乗ったのです。

 GNPの具体的な金額をみてみましょう。

 2010年の日本のGDP…480兆円
    〃   GNP…490兆円(487兆円)


 GDPとGNPは,だいたいは同じようなものです。数字的にそれほど大きなちがいはありません。しかし「〈国内の景気〉をみるうえでは,対象を国内の経済活動に絞ったほうがすっきりする」という考えから,GNPに換えてGDPを使うことにしました。

 この背景には,国際化の進展で「海外での国民の活動」が増えたことがあります。このためGNPとGDPのギャップが大きくなり,「それならGDPのほうを使おう」ということになったのです。

 でも,だからといってGNPという数字をまったく使わなくなったのではありません。GNPのほうも,経済の専門家などは今も必要に応じて使います。しかし,「国の経済規模や景気の状態をみるうえでの代表的な統計数値としては,GDPをおもに使う」ということです。そこで,テレビのニュースや新聞ではGDPのほうを使っています。


1人あたりGDPは,経済の発展度を示す

1人あたりGDP

 GDPは,「国全体の,みんなの買い物額」です。これを国の人口で割った「1人あたりGDP」という数値があります。これも,社会や経済を知るうえで重要な数字です。
買い物の額というのは,実際には人によってまちまちですが,平均値を求めたのが,1人あたりGDPです。

 2010年度の日本の「1人あたりGDP」を計算してみます。

 GDP480 兆円÷1億3千万人=およそ370万円/人
(475兆7578億円) (1億2805万人) (372万円/人) 

 「372万円」というのは,「370万円」とおぼえましょう。もっとドンブリで「300何十万円」でもいいです。
 この計算結果も,「最重要の数字」のリストに加えましょう。

日本経済についての最重要の数字(2010年)

 ・日本の人口 1億3千万人
 ・日本のGDP 480兆円
 ・日本の1人あたりGDP 370万円/人 


 1人あたりGDPは「その国の経済発展の度合い」を測るモノサシとして,使われています。これに対しGDPは,「その国の経済の大きさ」を示す数値です。

 日本の1人あたりGDPが「370万円」というのは,世界のなかで上位のほうに位置します。たとえば,つぎのような世界のおもな先進国の1人あたりGDPと肩を並べる水準です。アメリカ420万円,ドイツ380万円,フランス390万円,イギリス330万円……

 これらの先進国にくらべ,たとえば中国の1人あたりGDPは40万円で,日本の10分の1ほどです。お隣の韓国は200万円ほどです(以上,2010年の数字)。

 このように日本の1人あたりGDPは世界の中で高いほうです。とはいえ,一昔前より「順位が下がった」といわれるし,事実そうなのですが,ここでは立ち入りません。

 また,世界には1人あたりGDPが「数万円」という国もあります。アフリカやアジアで「最も貧しい」と言われる国は,その水準です。


数字の背後に,暮らしや社会がある

 「1人あたりGDPが大きい」ということは,その国では多くの人が活発な経済活動をしているということです。たくさんの高価な買い物をしたり,いろんな場所へ仕事や旅行で出かけたりする人が大勢いるのです。

 そしてそれは,そんな「人びとの活発な活動」を支えるさまざまな社会のしくみや設備が整っているということでもあります。
 無数の立派な工場やオフィス。国のすみずみまでいきわたった交通・通信網。いろいろ不満や問題はあるにせよ,まあまあまともに機能する政府と行政機関。さまざまなモノやサービスが並ぶショッピングセンターや繁華街。家庭にはモノがあふれている……

 そして,それだけの設備やモノを作り出せるだけの発達した産業があります。
 このような国が,一般に「先進国」といわれるのです。日本はそのひとつです。

 一方,1人あたりGDPがごく小さい国では,多くの人びとは,高価な買い物をすることも,自分の住む村や町を出ることも,あまりありません。人びとが活発に動きながら暮らすためのしくみや設備も不十分です。家財道具も,つつましい。

 このような国は,「発展途上国」といわれます。
 このように,「1人あたりGDP」という数字の背後には,その国の暮らしや,社会全体のあり方が存在しているのです。

1人あたりGDP×人口=その国の経済

 さきほど,「GDP÷人口=1人あたりGDP」である,と述べました。ここからちょっと踏みこんで,つぎのような式で,国の経済をイメージしてみましょう。

1人あたりGDP × 人口 = GDP(その国の経済)

 日本の1人あたりGDPは370万円。人口は1.3億人。
 これを,こう考えるのです。

「年間に1人あたり平均で370万円ほどの買い物をする国民が,1.3億人集まって,日本経済ができている」

 それだけの活発な経済活動をして暮らす人たちが1.3億人集まっている,ということです。その結果,GDPで400何十兆円という経済になっている。

 結局のところ,「1人あたりGDP×人口=GDP」という式は,「1人1人の暮らしが集まって,その国の経済ができている」といっているのです。

 1人1人の暮らしが集まって経済はできている。

 これは,すべての基本となる,だいじなイメージです。「経済なんて,むずかしく考えなくても,要するにそういうものなんだ」と思ってもらってもいいです。

 そのイメージを式であらわすと,「1人あたりGDP×人口=GDP」となるわけです。

 1人あたりGDP,人口,GDPの関係を図で表すと,こうなります。タテ軸に人口,ヨコ軸に1人あたりGDPを取ると,国のGDPは,つぎの図のような長方形の面積であらわすことができます。

1人あたりGDP×人口

(以上)
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コメント
この記事へのコメント
GDP=国民の買い物額
わかりやすいです!
このシリーズも楽しみです。
ひとりあたりGDPで世界の国をくらべるのも面白いですね。

でも、韓国の一人あたりのGDPが2万円は200万の入力間違いではないですか!?
韓国の人はお洒落で、服や化粧品をいっぱい買っている、物価も日本よりちょっと安いぐらい・・・というイメージだったので。

中国の40万は、人口の多い国だし、農村なら自給自足やそれに近い生活をしてる人も多いだろうし、物価も人件費も安いので、そのぐらいなのかなーと思いますが。

2014/01/19(Sun) 17:52 | URL  | ピピネラ #-[ 編集]
ピピネラさんへ
 コメントを早速いただき,ありがとうございます。
 長い記事だし,読みにくいかも…と不安だったので,たいへんうれしいです。

 それから,韓国の1人あたりGDPはご指摘のとおり,誤記です。教えていただき,助かりました(さきほど訂正しました)。
 韓国については,とくに若い世代は「日本にきわめて近いレベル」かそれ以上の経済水準をイメージすることも多いようですが,今は1人あたりGDPで日本の半分くらいの水準というわけです。
 
 「GDP=国民の買い物額」という説明は,自分としてはオリジナリティのあるものだと思っています。
 私の知るかぎり,こういう説明の仕方を全面に出している著作は知りません。たいていは(GDPとは)「付加価値の総額」か「国民全体の収入(給与)」といった説明です。もちろんそれも「正しい」説明なのです。でも私は,「買い物額」という説明から入るのが,初心者向けとしてはよいと考えています。この辺は,今後また述べていきます。

 一度挫折して再出発するシリーズです。今度はきちんとまとまったところまで展開していきます。今後ともおつきあいいただければ幸いです。
2014/01/19(Sun) 18:15 | URL  | そういち #-[ 編集]
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