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2014年01月27日 (月) | Edit |
 「GDPでみる経済入門」の5回目。
 今回は「GDPでないもの」というテーマです。
 
 「これはGDPなのか?」と迷う事柄で,やはりGDPには含まれない,というものがあります。それがどういうものであるかを知ると,「GDPとは何か」がよりはっきりしてくるはずです。
 
 いろんな経済上の事柄について「これはGDPなのか?」という質問を,先日読者のピピネラさんからいただいています。ご質問の多くは,この回で展開したいと思っていたことにかかわります。


GDPでないもの


貨幣経済の外にあるもの

 これまで,「GDPとは」ということを述べてきましたが,ここで,「GDPでないもの」について述べていきます。
 そのことによって,「GDPとは何か」が,よりはっきりするでしょう。

 まず,貨幣経済の外にあるもの,つまりお金で売買されないものは,それが何らかの価値を生み出す活動であっても,GDPに含まれません。(ここでいう「貨幣経済」は,「市場経済」ともいいます)

 たとえば,主婦の家事労働は生活にとって重要なサービスを生み出していますが,お金で売買されないので,GDPには含まれません。しかし,家事労働を家事代行サービスの会社が行う場合は,そのサービスはお金で売買されているので,GDPに含みます。

 また,自給自足的に生産されたものも,売買されていないので,原則としてGDPには含みません。
 しかし,例外として,農家の自家消費分,つまり農家が自分でつくった作物を自分の家で消費した場合は,GDPに含みます。農家の自家消費は,自給自足的な消費としては比較的大きなものなので,これをGDPに含めないと,経済の実態をゆがめてとらえてしまう,という考えからです。

 このようにGDPは「貨幣経済の世界」だけを対象にしています。
 ということは,貨幣経済の発達した社会でないと,GDPというものは成立しないわけです。

 たとえば,日本では平安時代くらいまでは,貨幣経済はきわめて未発達で,お金によるモノやサービスの取引は,ごく限られていました。だから「平安時代のGDPは?」という問いかけは,ほとんど意味をなさないといえます。

 GDPから経済をみることができるのは「近代的な経済」かぎられる,といってもいいでしょう。


金融のお金の流れ

 モノやサービスの売買と同じように,お金のやり取りが行われていても,GDPには含まれないものがあります。
 これは,「金融のお金の流れ」というものです。

 「金融のお金の流れ」とは何か?
 これは,基本としては「お金を貸す」ことだと考えてください。
 「金融の基本は,お金の貸し借り」ということです。

 「お金を貸す」というのは,「返してもらう」という前提の,お金の流れです。たいていは,返済の期限があり,利子を払う約束がつきます。利子とは,お金を貸してくれたことに対するお礼,あるいはお金のレンタル料のようなものです。

 これに対し,GDPに含まれる「買い物」のお金の流れは,お金を支払って,そのかわりに商品(モノやサービス)を手に入れることです。
 
 AさんがBさんに100万円を貸す。そこで100万円のお金が動いていますが,この「お金の流れ・動き」は,GDPには含みません。そこには「モノやサービスの売買」ということがないからです。
 単に「100万円」というお金の置き場所がAさんの財布からBさんの財布に変わっただけ,ともいえます。
 
 私たちが銀行に預金するのも,「お金を貸す」ことの一種です。
 銀行預金の利子は,銀行が私たちに借金の利子を払っているのです。預金を銀行から引き出すのは,貸したお金を返してもらっているのです。

 銀行は,私たちから借りたお金を,企業に貸しつけたり,国債や株などの証券を買ったりして「運用」しています。

 「国債を買う」というのも,「お金を貸す」ことの一種です。
 新たに発行された国債を誰かが買うと,その買ったお金は国の金庫に入ります。そして国は,国債を発行したときの約束にしたがって,国債の保有者に利子つきで借りたお金を返していくのです。

 「株を買う」というのも,その株式を発行した会社にお金を貸しているのに近いです。
 ただし,ふつうの貸し借りではなく,「お金を受け取った株式会社は,事業の利益が出た場合に配当という形で,お金を出した人(株主)にお金を返す」ことになっています。

 こういう特殊なお金の流れは,「貸す」とはいわず「出資」といいます。
 「出資」は「貸す」から派生した進化系といっていいでしょう。
 
 以上のような「お金の貸し借り」「その進化系である出資」ということが,「金融のお金の流れ」の中心です。
 この「金融のお金の流れ」は,GDPには含まれないのです。

 そして,国債や株式の売買には,「最初にそれが発行されたときの売買」と,「一度発行されたものを,他人に譲渡する売買(転売)」があります。今述べたのは「最初に発行されたときの売買」のイメージです。
 そして,「一度発行された証券を転売する」ことも,やはりGDPには含みません。
 これも,お金や証券(株や国債)の持ち主が変わっただけで,新たな付加価値が生まれたわけではない,ということです。

 土地の売買も,これと同様の考えでGDPには含めません。
 土地が売買されても,お金や土地の持ち主が変わっただけ,ということです。

 ただし,銀行が企業にお金を貸すなどして受け取った利子は,GDPに含めています。
 銀行が受け取った利子は,「金融のサービス」という付加価値の対価として位置づけられています。「お金を必要とする企業にお金を融通する」というサービスを提供したのです。銀行などの金融機関は,そのような「金融のサービス」を生産しているわけです。

 また,不動産の売買で不動産会社が得る仲介手数料も,「仲介サービス」の対価であり,GDPに含まれます。

 やや性質は異なりますが,中古品の売買も「持ち主が変わっただけで,新たな付加価値の生産がない」ということで,GDPに含めません。

 
「国内」と「国民」

 結局,「GDPでないもの」は何か?については,以上述べた2つのことをまずおさえましょう。

 (GDPでないもの)

 ・お金で売買されないもの
 ・金融のお金の流れ


 この2つは,いわば基本です。このほかの「GDPでないもの」の知識は,枝葉に属するといっていいです。

 「枝葉」の中の最も代表的なものは,「GDP=国内総生産」と「GNP=国民総生産」のちがいです。
 「国内」と「国民」のちがい。

 「国内総生産」だと,日本在住の外国人の所得は含まれ,外国在住の日本人の所得は含まれません。
 「国民総生産」だと,日本在住の外国人の所得は含まれず,外国在住の日本人の所得は含まれます。

 このように両者はちがいますが,基礎となる「生産」の概念は同じです。つまり,貨幣経済のなかで取引される付加価値の生産を対象としており,金融のお金の流れを含まない,という「幹」の部分は同じなのです。

 ***

 それから,「輸出・輸入」といった海外とのやりとりのことは,これまで触れてきませんでした。
 これは,後の章できちんと述べます。
 「海外とのやりとり」のことは,国内の経済をみるのとはやや異なる視点や発想があるので,別に扱ったほうがよいと考えるからです。

 とりあえず,

 「輸出-輸入」額がGDPに含まれる

 ということだけ述べておきます。

 「輸出-輸入」のことを「純輸出」といいます。「貿易黒字」というのは,この「純輸出」です。


実体経済と金融経済

 もうひとつ,まとめておくべきことがあります。

 それは,経済には大きく2つの「お金の流れ」があるということです。

 「お金の流れ」というのは「お金の動き」「お金のやり取り」あるいは「取引」などといってもいいですが,ここでは「お金の流れ」ということにします。
 今の社会では,お金の流れをともなわない経済活動(自給自足や物々交換)の比重は,かぎられています。
 だから「お金の流れの世界≒経済」と考えていいでしょう。

 【経済の2つのお金の流れ】

 ①GDPに含まれるお金の流れ…「買い物」の世界(モノ・サービスの生産・取引)
 ②GDPに含まれないお金の流れ…「金融」の世界(お金を貸す・出資する)
 

 ①のことを実体経済,②を金融経済ともいいます。

 「実体経済」「金融経済」といういいかたには,「実体」のほうがよりホンモノである,というニュアンスがあります。たしかに私たちの生活を「直接」にかたちづくるのは「実体経済(GDPに含まれる世界)」のほうです。その意味で「実体」なのです。

 しかし,現代の経済においては「実体」と「金融」は,ワンセットです。金融経済なしで実体経済はまわっていきません。銀行が企業にお金を融資(貸す)したり,株式の発行によって資金調達をする,国債を発行して政府が予算をまかなうといったことがないと,企業も政府も満足な活動ができないのです。

 「金融」とは,「お金を融通する」ということです。
 「融通する」とは,お金を「余っているところから,必要としているところへ移してあげる」ことです。

 このような活動は,GDPそのものにはカウントされなくても,GDPに影響を与えます。
 たとえば,生産拡大のために資金を必要としている企業にお金が十分に融通されれば,つまり融資が活発になされれば,GDPは増えていきます。

 つまり,金融とは,必要なところへお金を移すしくみといっていいでしょう。

 ***

 これから,何回かにわたって「実体経済や金融経済を構成する各要素と,その相互の関係」をみていきます。
 「実体経済」「金融経済」という,経済の2大領域を見渡すための最低限の話をするつもりです。

 たとえば「個人の買い物(個人消費)」「企業の買い物(設備投資)」「政府の買い物(政府支出)」の相互関係,といったことです。
 金融経済についても,「金利」「為替」「株価」などの重要な要素があり,それが実体経済に影響を与えています。また,金融経済の各要素のなかでも,互いに影響を及ぼしあっているわけです。

 そのような相互関係の基礎を,ざっくりみわたしていきます。
 すると,初歩のレベルなりに「経済全体の見取り図」がアタマの中にできていくはずです。

(以上)
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テーマ:勉強
ジャンル:学問・文化・芸術
コメント
この記事へのコメント
証券会社を利用した際に発生する仲介手数料はGDPに含まれますか?

銀行の利子や不動産の仲介手数料については明記されているのに、証券会社についての言及がなかったもので気になりまして。
2018/03/25(Sun) 08:58 | URL  | バニラアイス #-[ 編集]
バニラアイスさんへ
バニラアイスさん、コメントありがとうございます。
返信が遅れ、恐縮です。

> 証券会社を利用した際に発生する仲介手数料はGDPに含まれますか?

はい、「含まれる」ということでいいです。
不動産の仲介手数料と同じく、一定のサービス、この場合は金融(株式などの)取引の仲介というサービスを生み出した、と考えることができます。

「仲介」というのは、モノをつくっているわけでもないし、サービスとしても捉えにくいところがあるので、「生産」の行為と捉えにくい面がありますが、やはり一種のサービス(の生産)とみるべきです。
2018/03/26(Mon) 21:03 | URL  | そういち #-[ 編集]
返信がありがとうございます。
おかげで不安が解消されました。重ね重ねどうもありがとうございました。
2018/03/28(Wed) 21:25 | URL  | バニラアイス #-[ 編集]
事実誤認と思われる箇所が
>>銀行は,私たちから借りたお金を,企業に貸しつけたり,国債や株などの証券を買ったりして「運用」しています。

これはよくある勘違いです!
銀行は借りたお金を運用しているのではなく、金を貸す際には、新たに預金という貨幣を発行しています。信用創造という仕組みです。
2020/05/01(Fri) 17:30 | URL  | necco #-[ 編集]
Re: 事実誤認と思われる箇所が
コメント、ありがとうございます。ご指摘、感謝です。たしかに経済学のテキストなどでは、おっしゃっている「銀行の信用創造」のことが出ていますよね。

ただ、ご指摘の箇所の記述については、ときどき言われるような「よくある間違い」とは思っていません。実務的な感覚としては、銀行としては預金というものをベースに、それに一定の制約を受けながら貸付などを行っているということで良いと思うのです。このあたりのことは、入門的な解説でも「理論的には信用創造だが、実務としては…」みたいに述べられていることもあったと思います。たしかに、銀行が現実の預金とは無関係に(野放図に)「信用創造」するということは、現実にはないでしょう。

また、「運用」というのも、かなりあいまいな広い意味での「お金の流れの形成」というニュアンスで、ここでは使っているつもりです。だからカギカッコ付きです。

ただ、ここで「よくある間違いをしている」と、勉強されている方に思われてしまうも良くないとは思います。だからこう書いたほうが良いかとも考えました。《銀行は、私たちから「借りた」お金をベースに、企業に貸し付けたり、国債や株などの証券を買ったりしています》「運用」という言葉は、ひっかかる人がいるなら、文章全体の主旨に影響はないので、取ってしまってもいいのでしょう。「ベースに」というのは、「直接にその資金を流用して」というのよりも広い意味あいを出すのに、こういう表現はどうかと。

とにかく、記事を詳しく読んでいただき、ありがたくうれしく思っています。
2020/05/02(Sat) 10:06 | URL  | そういち #-[ 編集]
Re:Re:事実誤認と思われる箇所が
丁寧にお答えいただきありがとうございます。
記事の本旨と離れた内容にも関わらずお付き合いいただき、感謝します。

ただ、一点だけ。

>>実務的な感覚としては、銀行としては預金というものをベースに、それに一定の制約を受けながら貸付などを行っているということで良いと思うのです

こちらに関して、やはり気になってしまうなぁという印象です。
正確には、銀行は「自己資本比率」の制約を受けながら貸付を行っています。
銀行にとって預金は負債です。むしろ、預金が増えれば自己資本比率が下がって貸出枠は減ります。実務的にも、別に借りたお金を持ってきてそれを貸し出しているわけではありません。

>>銀行が現実の預金とは無関係に(野放図に)「信用創造」するということは、現実にはないでしょう。

その通りですが、制約を受けるのは預金ではなく自己資本比率です。
ご存知の通り、バーゼル規制で自己資本比率が8%以上と決まっていますので、野放図に「信用創造=貸出」することはないですが、それは預金に制約されているというよりは、自己資本に制約されていると言えます。


以上を踏まえると、訂正いただいた以下の文に関して
>>《銀行は、私たちから「借りた」お金をベースに、企業に貸し付けたり、国債や株などの証券を買ったりしています》

こちらは、《銀行は自己資本をベースに、企業に貸し付けたり、国債や株などの証券を買ったりしています》という表現がより適切かと思われます。


細かい指摘、気分を害されたら申し訳ございません。
この分野に関して、不可解な誤解があまりに多いため、目についてしまいました。。
例えば、難しいことを子供などに説明しようとするとき、正確さを欠いてしまうというのはよくあることであり、それについて否定しようとは思いません。
しかし、この誤解に関しては、本来生まれる必要のない誤解なのです。なぜなら、「銀行はね、持っているお金を貸しているんだよ」と言えばいい話だからです。これなら必要最低限の誤解で済む筈です。

長々と申し訳ありませんでした。
2020/05/02(Sat) 22:32 | URL  | necco #-[ 編集]
Re: Re:Re:事実誤認と思われる箇所が
neccoさん、ご丁寧にアドバイスをいただき、ありがとうございます。とにかく、記事に反応してくださって感謝です。それでは。
2020/05/02(Sat) 23:01 | URL  | そういち #-[ 編集]
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