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2013年03月02日 (土) | Edit |
「5分間の世界史」シリーズの3回目。今回はアジアの近代化がテーマ。「5分」というには,ちょっと長くなりました。


近代化とは「模倣」である

近年のアジアの発展 
最近の20~30年,東南アジアの国ぐに,中国,インドなどのアジアは急速に経済発展してきた。

アジア全体(日本除く,以下同じ)の,1973年~2001年の年平均の経済成長率(GDPの増加率)は,約5%だった。一方,イギリス,ドイツ,フランスなどの西ヨーロッパ諸国は約2%,アメリカと日本は約3%である。
 
この傾向は2000年代以降,ますますはっきりした。

2012年の経済成長率は,イギリス,ドイツ,フランスで1%以下,日本,アメリカは約2%であるのに対し,アジア全体では約8%になっている。

近年のアジアの成長の勢いは,先進国を大きく上回っているのである。

※長期的な経済成長率については,アンガス・マディソン『経済統計で見る世界経済2000年史』柏書房 による。なお,「1973年」で区切るのは,「石油ショック」などの世界経済の大事件があり,あとからふりかえると「時代の転換点だった」とマディソンが位置づけているからである。

1950~60年代はどうだった?
1900年代の前半まで,アジア諸国は,欧米諸国と日本の支配・圧迫を受けていた。そこから独立・建国したのは,多くの場合,第二次世界大戦がおわった1945年から1950年ころにかけてだった。

では,1950年(独立直後)から1973年までの,アジア(日本除く)の経済成長率は,欧米や日本とくらべてどうだったか? 
 
ア.アジアの成長率のほうが高かった
イ.欧米や日本の成長率のほうが高かった
ウ.どちらも同じくらい
 
***

1950~1973年の各地域の年平均の経済成長率は,つぎのとおり。
 
アジア(日本除く) 約5%
西ヨーロッパ 約5%  アメリカ 約4%  日本 約9%
 
「高度成長」の時代の日本は別にして,アジアと欧米の先進国の成長率は,だいたい同じくらい。いちおうウ.が正解である。

こうしてみると,「独立してからのアジア諸国は,しばらくのあいだ思うような経済成長ができなかった」といえるのではないだろうか。

もちろん一定の経済成長はあった。しかし,その勢いは欧米諸国と同じようなもの。それではいつまでたっても先進国に追いつけない。

独立したアジア諸国の大きな目標は,「近代化」ということだった。つまり,欧米の先進国に追いつくこと。その中心課題が「経済成長」である。国の経済を発展させ,貧困から抜け出すことだ。

独立以後のアジアは,紆余曲折があった。成長が軌道に乗るまで何十年もかかった。これはどういうことなのか?

ホッファーの言葉
今のアジア諸国は,日本や欧米などの先進国から技術や資本を取り込んで,発展してきた。先進国に学んできたのだ。「学ぶ」とは,「模倣」といってもいい。

経済発展が順調なのは,そのような「模倣」がスムースに行われているということだ。

「先進国に学ぶ」なんて,あたり前だと思うかもしれない。「すぐれたものがあれば,それをマネようとするのは自然なことでは?」と。しかし,私はつぎのように考える。
 
「すぐれたものにきちんと学ぶ」のは,じつは結構たいへんである。そこには,のりこえるべき障害がいろいろとある。とくに大きいのは,「プライド」ということ。「プライドのうらがえしの屈辱感」といってもいい。

このことを,1950~70年代に活躍したエリック・ホッファーという思想家が,うまく表現している。ホッファーによれば,

近代化とは,後に続く国が先進国を模倣(もほう)(マネ)すること 

である。そしてそれは,模倣する側に一種の屈辱感をあたえるのだ,という。ホッファーは,こう述べている。

《近代化とは基本的には模倣――後進国が先進国を模倣――の過程である……そして,自分よりもすぐれた模範(モデル)を模倣しなければならないときに苦痛を感じさせ,反抗を起こさせる何かが心の中に生じはしないだろうか……後進国にとって模倣とは屈服を意味する。》(『人間とは何か』河出書房新社)

「模倣がプライドを傷つける」という感覚は,個人にはわかりやすい。「お前のしていることは,誰それのマネだ」といわれるのは,ふつうはイヤだ。誰かのことをマネしていると,カッコ悪い感じがする。

それが国家や社会というレベルでもあるのではないか。

最初のうちは,プライドが邪魔をして先進国を模倣することを拒否している段階がある。それでは近代化はうまくいかない。しかし,いろいろ経験したのち,屈辱感をのりこえて外の世界に積極的に学べるようになっていく。その結果,近代化=経済成長が軌道に乗っていくのである。

独立・建国以後のアジア諸国の動きをみると,そのようなことが実際にあった。模倣の否定から,積極的な模倣へ。中国とインドはまさにそうだった。

中国の「大躍進」
社会主義国家「中華人民共和国」の建国から10年後の1958年のこと。中国では指導者・毛沢東によって,「大躍進」という経済発展のプランが打ち出された。「国家主導の計画にもとづいて,急速な経済成長をなしとげる」というものだ。「15年でイギリスを追い越す」という目標がかかげられた。
 
「大躍進」の特徴は,その計画を自前のノウハウだけでやり遂げようとしたことだった。

欧米の先進国から技術者や企業を招いたりはしない。材料や製品の輸入も,原則として行わない。とにかく,自分たちの手持ちの技術や資源でできることから出発する。

誰にも教わらず,独自の路線を行こうとしたのである。
 
とくに重視されたのは,鉄の大幅な増産だった。製鉄は「すべての工業の基礎」と考えられた。鉄の増産のための切り札は,「小型土法(どほう)炉(ろ)」というものだった。これは,土(陶器)やレンガでつくった小型の簡易な溶鉱炉のことである。これを各地にたくさん建設して製鉄をさかんにしようとした。土法炉は,「自前で」「独自に」という精神の象徴だった。

この運動の結果は,悲惨なものだった。たしかに鉄を増産することはできた。しかし,増産された分の多くを占める「土法炉でつくられた鉄」のかなりの部分は,品質が悪くて使いものにならなかった。貴重な資源や労力を投じて,大量のゴミを生産したようなものだ。

こんなことでは,経済の「大躍進」などムリな話である。

インドの「自前主義」
このような「自前主義」の発想は,1947年に独立したあとのインドでもみられた。インドは,中国のような社会主義ではない。民間の企業活動が認められている「自由主義」の体制だ。一応はそうなのだが,国家による経済への介入は積極的に行われた。

インドでも,「すべてを自前で」ということが重視された。自国で生産できるものは,国産品のほうが高くて低品質であっても,輸入しない。海外企業の進出は,原則として認めない。

国として,非常に閉鎖的だったのである。「先進国による輸出や企業の進出を許すと,国の経済が先進国にのっとられてしまう」と考えたのだ。

そのようなインドの経済成長率は,低い水準にとどまっていた。1950年~1973年の年平均の成長率は約3.5%。アジア全体の約5%を下回っていた。

路線変更
こうした中国やインドの閉鎖的な政策は,「模倣の否定」である。欧米の先進国に教わることなく,自分たちは自分たちのやり方でやっていく。それで追い越してみせる――そんなスタンスだ。

しかし,「模倣の否定」が失敗であったことが,しだいにはっきりしてきた。

「自国の成長が思うようにいかない」というだでけはない。自分たち以外で急発展するアジアの国があらわれ,先を越されてしまったのである。1970年代における,韓国,台湾,シンガポール,マレーシアといった「アジアNIEs(ニーズ)」の台頭である。
 「NIEs」とは,「新興工業地域」を意味する英語の頭文字だ。

アジアNIEsの国ぐには,中国やインドのような「自前主義」ではなかった。輸入についても,海外企業の進出についても,オープンなスタンスだった。先進国の下請けの工場も,たくさん建設された。

こうして先進国との接点が増えていくと,いろんな学習・模倣が行われるようになる。先進国の製品やサービスに触れたり,外国企業で働いたりすることで,技術やノウハウを身につける人が増えた。それが経済発展につながっていった。

「自前主義」が行きづまった結果,中国やインドでは大きな路線変更がおこった。「輸出入をさかんにする」「海外企業の進出を受け入れる」という方針に変わったのである。中国では1980年代,インドでは90年代のことだ。

そして中国では,それまではほとんど禁じらていた,民間の企業活動を大幅に認めるようにもなった。それは,社会主義じたいを見直すことだった。

中国でもインドでも,持続的な高度成長がはじまった。その成長は今(2010年代前半)も続いている。

今の中国やインドでは,先進国を模倣することへの抵抗は影をひそめた。目先の利益をもとめて,先進国の製品のモノマネやニセモノをつくることさえ,平気で行っている。

***
 
以上,中国・インドの発展の歩みを,「近代化とは模倣である」「模倣には屈辱感が伴う」という視点から述べてみた。

屈辱感をのりこえ,すぐれたものを積極的に模倣する――それができるようになって,アジアの急速な発展ははじまった。
 
この視点ですべてが説明できるとは,もちろん思わない。納得のいかない人もおおぜいいるだろう。でも,私は世界史を読み解くうえで,だいじな視点ではないかと思っている。「近代化=模倣」という見方は,これから何度も使っていくつもりだ。

(以上)
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