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2014年10月05日 (日) | Edit |
 最近このブログの近代社会のしくみというカテゴリーでは,「富裕層への課税強化による格差の是正」ということを何度か論じています。

 こんな論旨です。

 資本主義は,「資産」(収益を生む,証券や不動産などの財産)を持つ者が,より多くの利益を得るしくみである。つまり今の世の中は,多くの「資産」を持ち,そこから多くの収入を得ている富裕層にとって,有利にできている。

 とくに,第二次世界大戦後は,一定の平和が長く続いたために,富裕層の資産は順調に成長している。その成長の勢いは,多数派の人びとの収入増や経済全体の成長を上回る。

 そのために,富裕層とその他の人びとの格差は,近年ますます大きくなっている。
 このことは,社会にあつれきや不安定をもたらすおそれがある。

 今後は,この格差を是正する手段として,「富裕層の資産に対する課税強化」ということが,多くの関心を集めるのではないか。

 この数十年の増税は,日本でも多くの先進国でも,消費税の拡充のような「広く・薄く」というものが中心だった。
 しかし,これからは社会の少数派である富裕層を対象にした増税が,重要になっていくのではないか。

 その背景には「格差の拡大」だけでなく,先進国の国家財政の極端な悪化ということもある。
 今の先進国の政府は,とにかく財源が足りない。
 税金をもっと集めないと,破綻してしまう。
 日本はその最たる例である。
 
 ***

 以上がまえおきで,ここからは,今回の話になります。

 では「富裕層への課税強化」などということが,実際にできるのか?

 「できるのか?」というのには,2つの意味があるでしょう。
 ひとつは,「政治的に実現可能なのか」ということ。
 もうひとつは,「そのようなことをして大丈夫か,社会的混乱や問題は起きないか」ということ。

 まず,「政治的な実現可能性」です。
 「資産課税の強化」など,お金持ちは反対で,政治的に抵抗するでしょう。

 そして,その抵抗の力は大きなものであるはずです。富裕層は社会のなかで,大きな影響力を持っています。お金だけでなく,知恵やノウハウや権力者とのつながりがあります。

 それだけに,今の税制は,富裕層に有利につくられているところがある。
 アメリカで2番目の大富豪のウォーレン・バフェットは「私が払う税率より,私の秘書の税率のほうが高い」と言ったことがあるそうです。

 でも,社会の少数派であるお金持ちは,多数派の人たちに,最後は負けるのではないか。
 少なくとも中長期的には。
 そういう視点は持ったほうがいいと思います。

 「資本主義における格差の拡大」を論じた著作が話題になった,経済学者のトマ・ピケティもそのことを述べています。富裕層への課税強化は,政治的に可能だと。
 
《課税は寄付とは違う。民主主義に基づいて多数決で決まり,全員に影響する。富裕層が賛成する,しないは関係ない。民主主義の力によって,富裕層に法の規則を与えることは可能だ》(『週刊東洋経済』2014年7月6日号)

 ***

 世の中をみていると,政治家や官僚が富裕層の代理人のようにみえることがしばしばあります。

 たとえば,この20~30年,米英を中心に「新自由主義」的な政策が進められたことなどはそうでした。その政策のもとでは,富裕層に有利な方向に社会は動いたといえるでしょう。

 しかし,「富裕層と政治権力者(政治家・官僚)が仲がいいのは,平常時のことであって,いつもそうとはかぎらない」と私は思います。「平常時」というのは,社会・経済が比較的安定している状態。
 
 それに対し,深刻な「危機」や「苦しみ」の時代には,政治家や官僚は必ずしも金持ちの味方ではないのです。

 第二次世界大戦のときは,まさにそんな「非常時」でした。

 この戦争のときには,企業の活動は徹底的な統制をうけました。法人の利益や経営層の報酬にも強力な制限がかかりました。戦争に勝つため,企業や資本家は国に奉仕しないといけませんでした。儲けるなど,とんでもない!

 たとえばヒトラーは「前線で兵士が血を流しているのに,銃後で戦争成金が続出するようなことは極力ないようにしないといけない。今度の戦争で儲けようなどとたくらむ者は,死を得るのみだ」ということを言っています(『ナチス経済統制読本』,滝村隆一『国家論大綱』より孫引き)。

 このようなヒトラーを,民衆は熱狂的に支持したのでした。
 国民の支持を得た独裁権力には,資本家も屈服せざると得ませんでした。
 
 「戦争は,悪い政治家と悪い資本家がいっしょになってひきおこす」という話を,かなりの人は聞かされたことがあると思います。しかし,20世紀以降の「総力戦」においては,戦争というのは資本家にとって非常に厳しいものなのです。

 ***

 これからの先進国でも,「平常時」から「非常時」となるおそれはあります。
 可能性が高いのは戦争ではなく,「財政の危機」がもたらす,政治・経済の非常事態です。

 その「財政の危機」をもたらすのは,何か?
 社会保障費などの福祉の負担です。

 今の日本の財政では,そのことが典型的に起こっているわけです。

 2013年度において,社会保障給付費(出ていくお金)は110兆円ほど。それに対し保険料収入は60兆円ほど。
 つまり,50兆円もの財政的な「不均衡」がある。
 この「不均衡」は,このままだと高齢化の進展によってますます拡大していく。
 
 これに対し,消費税を5%から10%に引き上げた場合の増収の見込みは「十数兆円」というところ(今のところは8%に上げただけですが)。
 この増収分は,上記の「不均衡」を穴埋めする原資になり得ます。
 しかし,額としてはあまりに不十分です。
 社会保障の財源不足という大問題にとっては,最近の消費増税は「焼け石に水」ということです。

 だからといって消費税を30%,40%に上げていくことができるのか?
 あるいは,社会保障給付をすぐに大幅にカットできるのか?

 どちらも,むずかしい。そんなことをしたら政権が持たない。国民の支持を得ることができません。
 少なくとも,並の政治家にできることはありません。

 だとしたら,新たな「財源」をどこかに求めないといけません。
 その有力な候補が,富裕層です。

 たとえば,相続財産。今の日本では年間に数十~100兆円程度の相続財産(金融資産と不動産)が発生しているそうです。(鈴木亘『社会保障亡国論』などによる)

 しかし,相続税の税収額は1兆円強にしかすぎません。これは「非課税」の枠がそれだけ大きく設定されているからです。「非課税」の範囲をもっと制限して課税を強化すれば,かなりの税収が見込めます。

 たとえば,すべての相続財産にたいし一律に10%の税を課せば,10兆円くらいになる。あるいは,相続財産の多くの部分は,富裕層が占めているはずです。そこに集中的に課税することも考えられます。

 相続税の拡充は,富裕層への課税強化となるでしょう。
 そして,日本でも来年から相続財産への課税は強化されることになっています。「非課税枠」の縮小などの変更があるのです。

 福祉(社会保障)と戦争は,似たところがあります。
 どちらも,ばく大な国家予算を使います。
 そして,一度深入りすると,その予算が際限なく膨らんでいくところも。
 途中で引き返すのが非常に難しいのです。
 その戦争や福祉の政策を維持することは,「強力な正義」となって,否定することが困難になってしまう。

 人権や人命を踏みにじる行為である戦争と,福祉を同列に置くなんてとんでもない!
 そう思う方もいると思います。
 たしかに「人権や人命の尊重」という点では,戦争と福祉は対極にあります。
 
 しかし,財政への作用という点では,似た面もあるということです。

 財政の危機によって,社会保障が破たんしそうになったとき,多くの人の生活が立ち行かなくなりそうなとき,富裕層への目はきびしいものになるでしょう。
 「この非常時に,自分の財産のことばかり考えるなど,とんでもない!」ということです。「この戦争のときに利益追求など,とんでもない」というのと同じです。

 以上 「民主主義のもとでは,富裕層は安泰ではない」ということです。
 これからの社会をみるうえで,意味のある視点だと思います。

 そして,「富裕層の資産への課税強化」については,もうひとつの視点があります。
 「そんな課税強化をして,社会に混乱や問題が生じないか」ということ。
 民主主義の力で実現したことだからといって,いつもよい結果を生むとはかぎりません。
 そこは冷静に考えてみる必要があります。
 これは,また別の機会に。

(以上)
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