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2015年01月20日 (火) | Edit |
 家に帰ってテレビをつけると,NHKニュースで「イスラム国」が日本人2人を人質にとった事件について,大きく報道していました。

 このようなテロは許せないし,とにかく2人の無事を祈るばかりです。
 「イスラム国」の残虐行為は,私たちの「文明社会」に対する挑戦です。
 その意味で彼らは「敵」である。
 
 しかし,「敵」を知ることは大事です。
 表面的な「時事解説」ではなく,本質的なところをつかんでおきたい。

 この2週間くらい,たまたまイスラム関係の本を読み返したり,「イスラム国」について論じた本を読んでいました。
 そこで知ったことを,簡単に書きます。
 とくに,ロレッタ・ナポリオーニ『イスラム国 テロリストが国家をつくる時』 (文藝春秋)を参考にしています。

 ***

 「イスラム国」は,シリアの一部からイラクの一部にまたがる地域を支配する,イスラム過激派のテロ組織です。
 去年(2014年)の6月に「国家」としての独立宣言(国際社会では未承認)を行ってから,急に注目されるようになりました。
 それ以前には,目立った存在ではなかった。この2,3年のあいだに台頭したのです。

 この組織のリーダー,アブ・バクル・アル・バグダディは,2009年までイラク国内の米軍の収容施設(刑務所)に入っていました。つまり,ほんの数年前に刑務所から出てきた男が,急速に大きくしたということ。

 「イスラム国」が台頭した根本には,その「戦略」があります。

 その戦略は,従来のイスラム過激派とは異なっています。

 従来のイスラム過激派の運動方針は,「革命モデル」といえるもの。
 これに対し,「イスラム国」は「征服モデル」です。

 「革命モデル」とは,テロや武力によって政権を転覆し,国家権力を奪取しようとするやり方です。
 その攻撃対象は,国家権力の中枢。
 例えていえば,国家という巨大な乗り物のコントロール室を攻撃・占拠し,その操縦桿を奪うということ。

 レーニンが指揮したロシア革命(最初の社会主義国家・ソ連を建国)は,まさにそういうものでした。

 ただし現実には,多くの過激派組織は「権力奪取」には程遠い状態です。たいていは「散発的なテロや武力行使で,政権を動揺させる」といった「準備段階」にとどまっています。自爆テロを行う組織は,そんな状態にあるわけです。

 イスラム過激派にかぎらず,「過激派」とよばれる組織は,ほとんどがこの「革命モデル」の発想で動いてきました。

 「9.11テロ」のアルカイダの場合は,「国際革命モデル」とでもいったらいいでしょうか。
 世界の支配者(コントロール室)であるアメリカを攻撃することで,世界秩序に揺さぶりをかけようというものです。

 ***

 つぎに,「イスラム国」の戦略である,「征服モデル」について。
 これは「国家権力の中枢」を攻撃するのではなく,「国家権力が行き届かない地域を征服する」という発想です。内戦などで一種の無政府状態になっている地域を狙うのです。

 そのような権力の空白地帯では,地域ごとに小規模な武力勢力が割拠していたり,勢力どうしの戦闘がくり返されたりしています。暴力や犯罪が横行し,割拠する支配者は暴虐で,インフラも荒廃しています。まさに「非道」な状態です。

 そんな支配勢力を排除し,各地を自らの支配下におくことを,「イスラム国」はシリアやイラクの一部において積み重ねてきたのです。

 そして,征服した地域では「非道」な状態を,ある程度改善してきました。最低限の治安を維持し,道路や電気などのインフラを立て直し,食糧の配給や予防接種を行う,といったことです。それによって住民からの一定の支持を得てきました。「とにかく,これまでよりはましだ」というわけです。
 その一方で,自分たちへの反対者には,徹底して攻撃を加える。残酷な手段も辞さない。

 活動の資金源は,征服した地域にある油田です。油田のある場所を,彼らはまずおさえようとしました。採れた原油は精製加工して,闇取引で売りさばく。あとは,銀行強盗や誘拐などの犯罪で資金を得る。

 多くの過激派組織は,社会の中に潜伏する文字通りの「組織」です。これに対し,「イスラム国」は地域社会を占領・支配しているのです。それは未熟なかたちであれ,やはり「国家」といっていいでしょう。しかし,国際社会の主流派によって承認されていないので,マスコミでは「国家」とはいわないのです。

 まず,辺境の無政府地帯を征服し,自分たちの小さな「国家」をつくる。
 そして,その「国家」は周辺の地域や国ぐにを征服し,拡張していく。
 最終的には,アフリカから東南アジアにいたるイスラム圏の全体を包括する。そこに自分たちの考える「イスラムの教え」に基づく,巨大なユートピアを建設する。

 そんな「プラン」「夢想」を,「イスラム国」は抱いているのです。

 近代以降の世界史では,国家は革命や独立によってつくられるものでした。
 近代以前には,国家はおもに征服によってつくられました。つまり,より強力な国家(共同体)が,周辺の共同体を支配下におくことで,国家は大きくなっていったのです。ローマ帝国もモンゴル帝国もそうです。そして,かつてのイスラムの帝国も,預言者ムハンマドが基礎をつくったムスリム(イスラム教徒)の共同体が,周辺の国ぐにをつぎつぎと征服することで生まれました。

 「イスラム国」のように,何もないところから,征服によってこれだけの規模の国家に近いものが形成されたのは,近代ではまれです。パレスチナのような事例もあり,空前のことではありませんが,レアケースです。

 ***

 以上,彼らは一種の「狂信」に基づく組織ではありますが,必ずしも支離滅裂ではありません。
 一定の戦略や合理性を持ち合わせているのです。

 「イスラム国」が最終的に勝利をおさめるのか,滅びるのかは,今は予想がつきません。
 「勝利」とは,とりあえず「国際社会で承認される国家の創設」といえるでしょう。
 「敗北」したとしても,「イスラム国」の事例は,今後のイスラム過激派に多大な影響を残すことでしょう。「征服モデル」という,新しい運動の方向を示したのですから。

 この組織の特徴については,ほかにもいろいろ言われています。
 インターネットなどのメディアの活用,外国人を広く受け入れていること等々です。

 その中で「イスラム国」の最も重要な特徴は,「征服モデル」による運動ということです。

 「国家をつくろうとしている,征服するテロリスト」。それが「イスラム国」。
 つい最近まで,思ってもみなかったようなものが,この世界にあらわれたのです。

(以上) 
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コメント
この記事へのコメント
おお!
なんか、よくわからなかったのが、スッキリ整理されました。わー、ありがとうございます!
2015/01/21(Wed) 22:34 | URL  | yuriring #-[ 編集]
Re: おお!
yuriringさん,「スッキリ整理された」とのこと,たいへんうれしいです。

私も,以前はこの組織について「なんかよくわからない」という印象でした。しかし,多少本を読むうち,「どんな性格・構図の組織か」について少しは基本的なことがわかってきたと思っています。もちろん,イスラム問題に詳しいなどということはありません。しかし,きちんと書かれた本をちょっと読むだけでも,ふつうのマスコミの情報ではわからないことがみえてくるのだと思います。

ただ,「組織の基本的な方向性」などはある程度わかっても,そのほんとうの「実力・影響力」については,私もよくわからないと感じています。「国際情勢の専門家」のような人たちのあいだでも,評価は分かれているようです。
2015/01/22(Thu) 07:06 | URL  | そういち #-[ 編集]
驚きです
そういちさん、こんにちは。
一気に拝読しました。
「征服」という新しい戦略を持っているとは驚きです。
既にある部分は征服しているわけですし、さらに拡大の戦略も持っているということで、ある一定の合理性はあるというわけですね。

大変読みやすい文章にも感銘を受けました。
2015/01/24(Sat) 16:45 | URL  | ST Rocker #GK7sQxxU[ 編集]
Re: 驚きです
ST Rockerさん,コメントありがとうございます。
文章を評価していただいたこと,たいへんうれしく,励みになります。

つい先日,テレビで「イスラム国」について解説する記者が「この組織の特徴は自分たちの支配地域を持っていることで,そこがほかのテロ組織とちがう」と言っているのをみかけました。この記事で述べているイスラム国の特異性は,これからは広く認識されていくのかもしれません。

かつての「イスラム国」は,この記事でいう「革命モデル」のテロ組織として,今とは別の名前でイラクを拠点に活動していましたが,比較的近年になって「征服モデル」に路線変更したのだそうです。2011年以降,彼らはシリアの混乱状態に目をつけ,まずそこに最初の小さな支配領域をつくろうとしました。

シリアではさまざまな国が入り乱れての代理戦争が行われています。記事で紹介したナポリオーニの本によれば,そのような状態では,テロ組織はスポンサー(資金提供する国)を得るのが比較的容易なのだそうです。たとえていえば,新興市場でベンチャー企業が入り乱れて競争しているようなものなのでしょう。

「イスラム国」も複数のスポンサーを得て,シリアの騒乱に「参戦」しました。ふつうのテロ組織なら,スポンサーの資金を得ながら活動を続けるやり方をとりますが,「イスラム国」そうはしなかった。得た資金で,彼らはまず油田のある地域を「征服」し,スポンサーに頼らずに済む経済基盤を築こうとしたのです。経済的基盤ができれば,スポンサー(背後にいる大国)から自由になれます。

以上,ナポリオーニの本で知ったことの,補足です・・・
2015/01/25(Sun) 08:19 | URL  | そういち #-[ 編集]
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