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2015年04月04日 (土) | Edit |
 ひさしぶりに経済のことについて書きます。
 アベノミクスで景気が今どうなっているのか,という話です。
(末尾に4月5日付記「安倍政権の目標について」もあります)

 アベノミクスが描いていたシナリオは,こんな感じでしょう。
 
 その1
 大規模な財政出動(公共事業など)で景気を刺激しつつ,
 金融緩和(金融の現場に大量のお金を送り込む)を行う。

 その2
 金融緩和は,株価の上昇や円安をもたらす(どうしてそうなるかは省略)。
 株価が上昇すれば,それで利益を得た人たちの財布のヒモは緩むだろう。

 その3
 円安は日本の輸出産業にとって有利に働くので,
 輸出増をもたらす(どうしてそうなるかは省略)。

 その4
 その後「成長戦略」もを打ち出していく(どんな戦略かは省略)。
 財政出動や金融緩和の効果とあいまって,企業の業績は改善する。

 その5
 業績が改善した企業は,今後のさらなる需要増も見越して,
 設備投資を増やすだろう。

 「もしも物価上昇が期待されれば,実質金利の低下が見込まれるので,
 借金をして設備投資をする意欲も高まる」という面もある(その説明も省略)。

 その6
 さらには雇用や賃金も増えて,家計も潤うはず。
 そうなると,多くの人たちが消費(買い物)を増やし,
 個人消費も伸びていく。


 個人消費はGDP(日本全体の総買い物額とイメージしましょう)の6割を占めています。
 つまりGDPの最も主要な部分。これが伸びて行けば,景気回復は軌道に乗ったといえます。「景気がいい」とは「GDPが順調に増えていく」ことです。

  関連記事:GDPでみる経済入門2 GDPの内訳
         ざっくりと,経済全体の話         
 
 ***

 アベノミクスではまず「その1 大規模な財政出動と金融緩和」を行いました。
 そして「その2 株価上昇,円安」は現実になりました。
 株価上昇による利益を得た人やその周辺の羽振りがよくなる,ということも起こっています。

 しかし「その3 円安による輸出の増加」は,今のところ起きていません。
 少なくとも2014年いっぱいまでは,そうです。
 ただし,年末から今年にかけてわずかに輸出が増えているという統計も出ています。
 
 なぜ輸出がのびないのか?
 円安になると,円高のときよりも安い値段で輸出できるのに。安ければもっと売れるはずなのに。
 ひとことでいえば「日本の産業の活力が落ちている」ということなのかもしれません。

 ただし「日本の輸出は,今は高付加価値のものが中心で,そういう製品は価格の変動による影響を受けにくい(値段でなく品質・性能で売れているから)」という面を強調する専門家もいます。
 だとすると「日本の産業の高度化・成熟化」が,「円安でも輸出がのびない原因」ということになります。
 あるいは,「活力低下」と「高度化・成熟化」の両方の面があるのかもしれません。

 「その4 企業の業績回復」というのも,ある程度実現しています。
 大企業(資本金10億円以上)の経常利益の合計は,2年前とくらべて何割か増えています。

 問題は,そこから先です。
 「その5 設備投資の増」と「その6 雇用・賃金の増→個人消費増」は,ほぼ起こっていません。

 直近の「景気の底」といえる2012年10月~12月期と比較して,
 その後2年間のGDPのおもな項目の伸び率(年間あたり)は,つぎのとおりです。

 民間消費 マイナス0.01%
 民間設備投資 1.8%増
 公的資本形成(公共投資) 8.1%
 
 (日経新聞 2015年3月11日「経済教室」宮川努教授のレポートより)

 ***

 「雇用・賃金の増加」については,去年の衆議院総選挙のころ,安倍総理が「この2年ほどで雇用が100万人以上増えた」と言っていました。たしかに,アベノミクス以降,求人の数は急速に増えました。
 しかし,増えたのはおもに非正社員の雇用です。正社員は十数万人減っているのです(ただし新卒などの若い人の求人では正社員ははっきりと増えている。しかし就職市場のほんの一部といえる)。
 さらに,増えた雇用の5割強は65歳以上の非正社員です。
 
 また,「増えた雇用がおもに非正社員」ということとも関連しますが,雇用者報酬(働く人たちが受け取る賃金の国全体の合計)は,増えていません。物価を計算にいれた「実質値」でみると,少し減っている。
 これでは消費に火は付かない。消費税を8%に上げたことや,一定の物価上昇という逆風もあれば,なおさらです。

 ただし,この2月には久々に非正社員が減り,正社員の伸びが大きかったという統計も出ています。人手不足の中,一部の企業で,スタッフの正社員化をすすめ人材を確保しよう,という動きもあります。これもまた一部の企業ですが,積極的な賃上げの動きもあります。また,さきほど述べたように「今年に入ってわずかに輸出が増えている」ということもあるわけです。

 まとめると,「この2年で,GDPの増加というかたちでの明確な景気回復はおきていない。しかし,一部に明るい兆しもある。だがしかし,それほど力強いものではなく,先行きは不透明」といったところでしょうか。「先行き」のカギとなるのは,多くの専門家がいうように,「設備投資」や「雇用・賃金」に火が付くかどうかということです。

 ***

 つまり,現時点では企業はそれなりに利益をあげているのに,正社員の雇用を増やしたり,給料を上げたり,設備投資を積極的に行ったりということをしていないのです。もちろん,企業によってちがいますが,全体の傾向としてはそうなっている。
 そのぶん,企業は手持ちのお金(内部留保)を増やしています。

 どうしてそうなるのか。
 「グローバル経済のなかで新興国と競争するには,人件費を増やすわけにはいかない」「不透明な環境のなかでは,内部留保をしっかりと確保して,何かあったときに備えないといけない」等々の説明はできるでしょう。

 でも,根本にあるのは「リスクをとらない,安全志向」ということでしょう。
 人(とくに正社員)を増やすのも,設備投資をするのも,成長に向けてリスクを取ることです。
 それを回避して,現金や国債のような安全資産をため込もうとする。
 
 これは,ようするに「保身」ということです。
 企業の意思決定を担う人たちの保身。
 
 今の日本企業は,そういうスタンスの経営者や株主が主流であるということです。
 経営者側としては,「昔とは環境がちがう。今の時代の経営はむずかしいのだ」ということなのでしょう。
 たしかに,昔の右肩上がりのころとは環境が大きくちがいます。だから「今の経営者は無能だ」と決めつけるわけではありません。でも,「リスクが取れないでいる」というのは,現実だということです。

 企業のかじ取りをする人たちの「保身」の姿勢が,景気回復のボトルネック(妨げ)になっている。
 
 そう考えると,「景気回復が思うようにはすすまない」ことについて,「安倍政権がいけない」「政治がいけない」とばかり言えない気がするのです。
 企業の経営者やその周囲にいる,かなり大勢の人たちの意思やスタンスが,かかわっているのですから。
 
 「リスクを取らない経営者」を「それではダメだ,無責任だ」と批評することはできます。
 リーダーなんだから,リスクのある,大変なことに取り組んでもらわないと困ります。

 でも,「リスクを取りたがらない」のは,経営者だけの話ではないはずです。

 今の日本では,多くのふつうの人たちも,リスクを取るのはイヤなのだと思います。たとえば,若い人たちのあいだで公務員や公益法人が就職先として非常に人気が高かったりする。庶民がリスクを避けようとするのは当然ですが,その傾向が一層強まっているように,私は感じます。私たちの多くは,すでにかなりのいろいろな財産や権利や,あるいはそれらを手に入れる可能性を持っていて,そうした利益を失うことを恐れるようになっているのです。

 今の経営者の姿勢は,そんな日本人全体の様子を代表しているのかもしれません。

 「今の経営者はダメだ」というなら,私たちは自分の身近で「リスクをとって新しい何かに挑戦する人」がいたときに,応援しているでしょうか?
 じつは冷ややかにみていたり,非難や反対をしたりしていないでしょうか? 

 リーダーが選んだ「無難に,安全に」という路線を,私たちも支持していないでしょうか? 積極的に新しいことに挑戦する自分の会社の経営者を,「めんどくさい存在」として嫌っていないでしょうか? 
 そんなふうに,自問してしまうのです。

 ***

(2015年4月5日付記・安倍政権の目標について)
 アベノミクスについて「大企業や金持ちに利益をもたらすばかりで,庶民の暮らしは悪化した。貧困や格差は拡大している。それがアベノミクス=安倍政権の本質であり,意図するところなのだ」という見方があります。「大企業や金持ち優先で,庶民・大衆はどうでもいい」のだと。

 それはちょっとちがうのでは,と私は思います。景気刺激などの経済政策は,たいていは大企業やお金持ちに有利に働きます。極端な社会福祉政策をとらず,自由主義的な経済運営のスタンスをとるなら,そうなるのです。資本主義というのは金持ちに有利にできています。そして「経済をうまく運営するには,基本的には自由主義しかない」という考えは,それなりに合理的で有力なものではないでしょうか? 私もその立場です。

 そして,安倍さんは「最初は大企業や金持ちに利益があるはずだが,それはやがて大衆にも波及するはずだ。アベノミクスによって,社会の多数派もハッピーになれるはずだ」と本気で思っているのではないかと,私はとらえています。
 
 なぜなら「大衆にも喜ばれる成果をあげること」が,彼の最終的な政治目標にとって,ぜひとも必要だからです。
 つまり,「憲法改正」を実現するには,大衆の圧倒的な支持が必要です。
 これまで以上に幅広い,深い支持が。

 そのためには,アベノミクスを成功させないといけない。圧倒的多数の人が「おかげで暮らしがよくなった,安倍さんに拍手!」と感じるようにならないといけない。

 人は,ときに不合理な目標を抱くこともあります。
 しかし,その目標を実現するための手段が,案外合理的であることも多いです。
 「憲法改正」という目標が「不合理」かどうかはおいておきますが,内外で反対の多い目標であることは事実です。
 安倍さんは,憲法改正という批判の多い最終目標を達成するために,「経済運営を成功させ,多くの人の暮らしを向上させる」という,じつにまっとうな中間目標を設定しているのだと思います。

 政治的な大目標を達成するために,経済政策を成功させる。

 そのようなケースで最も有名なのは,ヒトラーです。ヒトラーは大恐慌で混乱していたドイツ経済を,積極的な公共投資などで見事に立ち直らせ,失業を一掃したのでした。それが,ヒトラーの最初の大仕事でした。その成果をもとに,彼は独裁者としての地位を固め,侵略戦争を開始して,「ドイツによるヨーロッパ制覇」という,かねてからの大目標の実現に向け本格的に動き出したのです。ヒトラーは,政権の座につく以前には,経済政策にはあまり関心がなかったといいます。

 くれぐれも,安倍さんをヒトラーのようだと言っているのではありません。安倍さんは,もっと常識的な,現代日本の政治家です。でも,「自分の本来の政治目標を実現するために,手段として経済政策にまず力を入れる」ということが,有力な政治家の歩む道として,あるのだということです。

(以上) 
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コメント
この記事へのコメント
リスクをとらないと社会が展望できない
確かに「リスク」を取らない社会になっているのだと思います。その背景には「どのような社会になっていくのか」あるいは「どんな社会を作っていくのか」という方向性がはっきり見えないということもあるのではないでしょうか。
説明責任が叫ばれるこの時代,確かに社会は停滞しています。時代の転換点にいる今、その展望の方向を見つけるにも「リスク」をとるしかありませねん。自発的に模索をしていくしかないのですね。でもその活動もその応援もなかなか勇気がいります。
2015/04/05(Sun) 07:46 | URL  | かずゆき #-[ 編集]
Re: リスクをとらないと社会が展望できない
かずゆきさん,コメントありがとうございます。
「方向性がみえない」というのは,たしかに今の特徴かもしれません。でも,昔から言われていることのようにも思えます。ただし,昔と今がはっきりちがうのは「経済の成長の見通し」です。右肩上がりの時代のような「未来は今よりも経済が大きく成長しているはず」という見通しは,今は立ちません。そのことを「方向性がみえない」というなら,たしかにその通りだと思います。

それと,昔と今がちがうのは,記事にも書いたように,今の私たちの多くがそれなりに恵まれているということです。一定の財産や権利や,あるいはそれらを手に入れる可能性を持っている人が多くなった。こういう状態だと,人は「守り」に入るものです。

だとすると,「社会的にはリスクを取らないといけない」という「総論」は賛成でも,自分に具体的にかかわる場面では,「そのリスクはちょっと私は・・・」ということになりがちです。

リスクって,ほんとうに失敗する可能性が相当にあるから,リスクなわけです。
私ごとですが,かなり前に安定した会社の職を辞めて,起業の一種に挑戦するという「リスク」を取ったことがあります。でも,その挑戦はうまくいかず,その後の億単位の生涯年収と,数千万円の資産を失いました。まあ,借金は背負ってませんし,一家離散にもなっていませんから,「悲惨な結果」とは思いません(「残念な結果」ではありますが)。でも,リスクを取るってやっぱり大変なことだと思います。

それでも,ささやかであっても新しい何かに自分なりに挑戦する人が,世の中で増えて欲しいと思います。あるいは,リスクを取る人を応援するということでもいい。「応援する人を応援する」のだっていいでしょう。私も私なりにやっていきたいと思います。
2015/04/05(Sun) 21:22 | URL  | そういち #-[ 編集]
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