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2015年04月23日 (木) | Edit |
 前回の続きです。先週末,高校の先生方数名に招かれて,勉強会の講師を務めました。
 テーマは「これからの時代を生きるためのスキル・知識」。
 勉強会の背景や,参加者の方々の感想などについては,この記事のすぐ下の,前回の記事をご覧ください。

 また,前回の記事では,この時の勉強会でお配りしたレジメの前半を掲載しています。今回はその後半です。
 「本論」である,「8つのスキル・知識」についての説明です。

 「これからの時代を生きるためのスキル・知識」としてつぎの8つの項目があると,前回述べました。

 1.賢い機械=コンピュータといっしょに働くスキル
 2.読むための英語 ネットなどで英語の記事が読める
 3.実用的なわかりやすい文章が書ける
 4.制約のなかでも,生活を(それなりに)美しくできる
 5.お金(金融・会計)についての知識
 6.ざっくりと大きな流れを捉えた世界史  
 7.科学の本質についてのイメージ
 8.責任感のあるまじめさ・着実さ(基本的態度)


 1~4は「これができる」というスキル
 5~7は人生や社会について考えるための基礎知識(世界観のもとになる)
 8は基本的態度


 これらの項目は,
 ・抽象的・包括的になりすぎず,かといって細かくなりすぎず
 ・学校教育ではあまり力を入れていない
 ・しかし,適切なカリキュラムがあれば,原理的に習得可能(8.除く)
 ということを意識して打ち出しています。

 「抽象的・包括的になりすぎず」というのは,たとえば「生きる力」「問題解決力」「コミュニケーション力」みたいにならないように,ということ。
 
 そして,「この8つは大事だ」ということをお伝えする以上に,「考える刺激」にしていただければと思っています。自分なりに「これからの大事なスキル」のリストをつくってみるのもいいのでは。
  
 ***

勉強会「これからの時代を生きるためのスキルと知識」レジメ・続き

スキル・知識1 賢い機械=コンピュータといっしょに働くスキル

■3つのレベル
「英語」と並んで,このスキルが「大事だ」ということ自体は,誰も異論がないだろう。問題は,その内容をどうとらえるか。「コンピュータといっしょに働くスキル」には,つぎの3つのレベルがある。

 ①情報の消費のための端末を使える
 ②情報の生産・発信のための機器・システムを使える
 ③上記①②のシステムを作り出す・改善する・修理する


 多くのフツーの人に必要なのは,まず①で,それから②の初歩である。①は携帯やスマホやゲーム機を操作したり,パソコンでネット検索をしたりできること。②はおもにパソコンでワープロ・パワポ・DTPソフトのようなアプリケーションを使って,アウトプットができること。③は,ITの専門家・技術者の世界。 

■「②情報の生産」のスキルは自然には身につかない
 ときどき,これら(上記①~③)を混同している議論をみかける。例えば「今の若い人たちはゲーム機やスマホで慣れているから,ことさらにITの教育する必要はない」という意見もある。それでは②の教育はどうするのか? だからといって,コンピュータ言語などの③レベルが誰にも必要と考えるのは行きすぎ。

 ①は,今の時代はかなりの人が生活のなかで身につけている。しかし,自然に②を身につけているわけではない。大学生がワープロで作成した書類をみると,かなりの場合,基本操作ができていない。
 「コンピュータと働くスキル」とは,「コンピュータに手伝ってもらいつつ,コンピュータにはできない何かを行って成果を出せる」ということ。そこで,「コンピュータを補う何か」ができることが重要となる。


スキル・知識2 読むための英語

■興味のある分野の英文をなんとか読める
 「読む」「書く」「聞く」「話す」の全部をこなして英語でコミュニケーションするのは,たいへんハードルが高い。英語でのコミュニケーションのうち,最も初歩的で入りやすいのは「読む」こと。
 そして,英語を「読む」力は,今の時代はおおいに使いでがある。インターネットで大量の英文に手軽にアクセスできるようになったから。興味のある分野の記事をたどたどしくても読めたら楽しいし,世界が広がる。

 英語学習のとりあえずの目標は「興味のある分野に関する英文を,多少時間がかかっても読めるようになること」ではないか。もちろん,その先の英語力もあったほうがいいにきまっている。

■いろんなレベルなりに使える
 しかし,「とりあえずこれでいい」というレベルも自覚しておきたい。大事なのは,英語というのはいろんなレベルなりに「使える」ということである。就職の相談で「TOEIC600点じゃ,資格のうちに入らないのでは?」という話を聞くが,そんなことはない。たしかに「それでは足りない」という仕事はある。しかし,「600点でも(いや500点でも)とりあえずオーケー」という,英語を使う仕事もある。


スキル・知識3 実用的なわかりやすい文章が書ける

■重要なスキルなのに,実は学校では教えてくれない
 今の時代は,幅広い人たちが多くの文書を書くことを要求される。メールやSNSでのやり取り,就職活動,プレゼン,議事録,報告書,レジメ,レポート,システムに入力する記録……「実用的なわかりやすい文章が書ける」ことは,今の社会の重要なスキルになっている。しかし,実は学校教育ではあまり力を入れていない。

 国語や作文の授業は,あいかわらず「文芸」中心。ある種の凝った美文や芸術的な表現を追求することがメインで,「実用的でわかりやすい文章を書く」という視点は弱い。
 大学の授業で書かせるレポートも,「実用的な文章」のトレーニングにはなっていない。学術論文をお手本にしているせいではないか。学術論文というのは,多くの人からみれば,たいていはガチガチした読みにくい文章である。

■書くことが得意な人は少ない 
 書くことが得意な人は,じつは少ない。「パソコンが得意」「英語が得意」という人よりも少ないかもしれない。学校で「書くこと」の教育に力が入らない一因も,そこにある。「文章の書き方」を教えられる人が,教育現場にあまりいない。いたとしても,ほかのことで手一杯。

 数百~2000文字くらいの,一定のメッセージといくつかの情報で構成された,わかりやすい文章。それが不自由なく書けるとしたら,これから生きていくうえで,いろいろ得すること,楽しいことがあるだろう。書く力がアップすると,「読む」「聞く」「話す」も上手になる。


スキル・知識4 制約のなかでも,生活を(それなりに)美しくできる

■『暮しの手帖』を創刊した編集長・花森安治(1911~78)の言葉

 美しいものを見わける眼をもっている人は,どんなときでも,自分の暮らしを,それなりに美しくすることが出来る,幸せな人である。  
 (花森安治『灯をともす言葉』河出書房新社)

 これからの時代は,経済面などで多くの「制約」を抱えながら,しかし「美しい暮らしをしたい」という人が増えるのではないか。生活(衣食住)にかかわる,美しいもの,ステキなものについての情報が,世の中にはあふれている。私たちのデザインや美への感覚や欲求は,以前よりレベルアップしていくはず。

■価値観を柔軟にする
 しかし,経済の停滞や格差の拡大によって,思うような所得が得られない人も増えていく。だから,所得のなかで工夫することが大事になる。
 たとえば,ごく少ない・厳選されたモノだけで丁寧に暮らしていく。あるいは,以前は「つまらない」「安物」と思われていたようなものに,新たな価値や美を見出す。何がステキで良いものなのか,という価値観を柔軟にしていく。

 その対極が,ブランド好きのバブリーな価値観。これを追求するなら,少数の経済的成功者になることである。それができれば「バブリー」も楽しい。

 大事なのは,自分なりに「美しいものを見わける眼」である。それさえあれば,なんとかなる。しかし,学校教育は「暮らしを美しく」ということには,関心が薄い。政治家や官僚や企業の偉い人たちも,同様である(彼らの多くは仕事に忙しく,「毎日の・普通の暮らし」には無関心である)。


スキル・知識5 お金(金融・会計)についての知識

■「マネー教育」は必要だが
 従来の学校教育では,金融・会計についてはほとんど教えない。そこでいわゆる「マネー教育」の試みもある。しかしそれが,専門家(例えばファイナンシャル・プランナー)養成のミニチュア版だったり,「株式投資の模擬体験」に終始するような,応用的すぎるものであってはいけない。

 もっと根本的で,その重要性が広く認識されている知識があるので,それを教えるべき。例えば,「バランス・シートとは」「金融と実体経済の関係」といったことの基礎の基礎。それを学ぶことは結局,「企業とは何か」「経済とは何か」について知ることである。

■「金融」のパワーを理解する
 最近話題のトマ・ピケティ『21世紀の資本』(みすず書房,邦訳2014年)は,次のことを述べている。

・資本の成長率は,経済全般の成長率を上回る。このことは世界各国の長期統計から立証できる。
・そこで,富裕層に富が集中する「格差の拡大」は資本主義の必然であり,近年の世界的傾向となっている


 現代における「資本」とは,「金融資産(株・証券)」とほぼイコール。資本主義の経済は,金融資産を持つ者に有利にできている。今の世界で長者番付(資産ランキング)の上位を占めるのは,株式をおもな資産とする富豪である。

 ならば,普通の人たちもこのような「金融のパワー」を利用してよいのではないか。例えば,できる範囲で株式などの「成長が期待できる金融資産」に投資する。しかし,無知のまま投資を行うのは危険であり,勉強が必要。


スキル・知識6 ざっくりと大きな流れを捉えた世界史

■さまざまな文化を楽しむための基礎
 世界史の素養があると,この世のさまざまな文化や出来事を理解し味わう上で役に立つ。芸術に触れても海外旅行に行っても,多少の歴史的知識があれば,はるかに楽しめる。国際情勢に関するニュースを理解する上でも,世界史の知識は必須である。ニュースが理解できる,ということも人生を豊かにしてくれる。

 また,世界史をきちんと知ることで,社会全般についての見方も変わってくるはずだ。現代の(先進国における)政治・経済の制度が確立するまでの世界史の歩み。その困難な道のりについてイメージがあると,社会についてもっと建設的・現実的に判断できるようになるのではないか。
 つまり,現代社会の根幹をなす要素を根本から否定する,非現実的な思想(例えば「反科学」「無政府主義」)には,より懐疑的になるのではないか。

■世界史教育の混乱
 しかし,世界史教育は,あまりにも多くの国・地域やこまかな出来事について教えようとするあまり,混乱している。教えている先生でも消化しきれないくらいである。だから,読書家・勉強家のあいだでも,日本史に詳しい人はかなりいても,「世界史」に通じている人は少ない。

 これからの世界史教育では,教える内容を大胆に整理して,「ざっくりと大きな流れを捉える」ことをもっと大切にしていくべきである。


スキル・知識7 科学の本質についてのイメージ

■専門分化が進む科学の「本質」を押さえる
 科学の世界では今後,ますます専門分化や応用的な研究の蓄積が進むだろう。だから科学は,素人にはよりわかりにくい・近づき難いものになっていく。

 であればこそ,「科学的とはどういうことか」といった原点や本質を押さえることが必要である。そのためには,「現代の先端的な科学」を追いかけるのではなく,古典的・初歩的な科学について,まずしっかりと押さえること。それによって,「科学は仮説・実験を通して成立する」といった,科学の本質を知ることができる。

■「真理」についてのイメージ
 科学の本質がわかると,「真理とは何か」というイメージも明確になる。つまり「何が正しいか,真理であるか」は,仮説・実験によって初めて明らかになる,という感覚。これがあると,世の中に流布するさまざまなガセネタにひっかかりにくくなる。偏見や思い込みを持ちにくくなる。そのほうが,成功したり生きのびたりする可能性が高くなる。


スキル・知識8 責任感あるまじめさ・着実さ(基本的態度)

■「本当のまじめさ」が求められる
 これは「組織やシステムに守られるための免罪符」としてのまじめさではない。仕事の現場で,戦力として貢献するための「まじめさ」である。

 右肩あがりの,組織に余裕があった時代には,言われたことをこなし,決められたルールを守っていれば組織は評価してくれた。成果があがらなくても「決められた通りやっていたのだから…」という言い訳が通った。しかし,これからはますます組織に余裕がなくなり,本当の成果や貢献を,1人1人に求める傾向が一層強くなる。また,仕事がさらに複雑・高度になっていく。

 そこで,「責任感を持って,現場の問題に真剣に対処する」「コンスタントに着実に取り組む」という「本当のまじめさ」が重要になるだろう。

■優秀な看護師のような資質
 その「まじめさ」のイメージを,コーエンはこう述べている。

 労働市場で真面目さがとくに重んじられる業種が二つある。医療と個人向けサービスだ。医療の現場では医師以外のスタッフが大勢働いているが,そういう人たちは,きちんと手を洗い,カルテに正確に記載し,検査の数値を正しく読み取ってくれないと困る。要するに真面目でなくてはならない。(『大格差』39ページ)

 これは,いわば「優秀な看護師のようなまじめさ」である。「信頼できる人」「あてにできる人」といってもいい。このような資質は,昔から大切だとされていたが,これから一層価値を増すだろう。

 では,それをどうやって子どもや若者に身につけさせるのか? 管理や締めつけを厳しくすればいい,ということではない。本当の「まじめさ」は,やる気や志に支えられている。「締めつけ」では志は育たない。それを育てるのは,簡単ではないはずだ。

(以上)
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コメント
この記事へのコメント
始めました!
「興味のある分野に関する英文を,多少時間がかかっても読めるようになること」を目標に,『Chi Running』をAmazonで購入しました。
ランニングに関する本の中で最も役に立ったのが『気 ランニング』(と『マラソンは上半身が9割』)で,その元本が今回購入した『Chi Running』です。
大学を卒業以来,20年前ぶりに英文にチャレンジします。
併せて購入した電子辞書を使って,コツコツ読んでいこうと思います。
2015/04/24(Fri) 19:41 | URL  | 河上力哉 #-[ 編集]
Re: 始めました!
河上さん,コメントありがとうございます。
当ブログからの刺激が,河上さんの行動につながったこと,たいへんうれしいです。

ランニングに関心がおありなのですね。
こういう,健康・スポーツ関連の情報は,日本で流布しているものも,
もとをたどればアメリカ発のものがほとんどですよね。
だから,「オリジナル」に少しでも触れておくと,理解は深まるはずですね。

いや,さまざまな分野の情報が,結局はアメリカ発なのでしょう…
そうだとすると,私も,英語の情報なんてほとんど読まないので,
その限界はあるのだろうな,とあらためて思います。
今さらなのでしょうが,少しは英語の情報に学ぶことを取り入れていく必要は感じています。

日本語の本を読むときでも同じことですが,
アタマから全部読もうとすると大変です。
本全体の意図などを語った序論や結びなどは,一応丁寧に読み,
あとは興味の持てそうなところを拾い読み,というのがいいかもしれません。
2015/04/25(Sat) 09:24 | URL  | そういち #-[ 編集]
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