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2016年05月03日 (火) | Edit |
 今日は憲法記念日。
 憲法については,いろいろな議論があります。
 その議論も大事とは思います。しかしとにかく,今の日本では,一応は近代国家としての基準を満たした憲法が存在し,問題点はあるとしても一応は機能している。

 憲法記念日は,そのありがたみを再確認する日だと思います。

 この世界には「近代国家の基準を満たした憲法」が存在しない,あるいは機能していない国がたくさんあります。恐ろしい独裁体制となっている北朝鮮はそうですし,それと似た独裁国家は,ほかにもあるわけです。
 
 北朝鮮よりは,はるかに高度な政治を行っている中国でも,たしかに憲法はありますが,そのあり方が「近代国家の基準」を満たすかどうかは疑問です。中国では,国家権力を握っている共産党が憲法の上にある,というのが実態だからです。

 「近代国家の基準を満たした憲法」とは,「憲法が国家権力の上位にあり,国家権力を憲法が拘束する」ということです。「憲法は国家権力を拘束する」という考え方を「立憲主義」といいます。

 それをさらに広くとらえたのが「法の支配」です。これは「法によって国家のすべての構成員は拘束される。国家権力も例外ではない」ということです。そして,法のなかの最高のものであり,国家権力を規制するのが憲法である,というのが「立憲主義」です。つまり,「法の支配」という大枠において,とくに憲法と国家の関係に焦点を合わせたのが「立憲主義」ということです。

 法の支配や立憲主義は,抽象的で理屈として難しいところがあります。同じく近代国家あるいは近代的な憲法の重要な原則である「民主主義」よりも,理解しにくいです。

 民主主義とは,「国の政治に(立法などの意思決定に)国民の多数が参加できる」ということです。その参加は,選挙や国民投票などを通じて行なわれる。こういうことは,ざっくりとなら小学5年生でもイメージできるのではないでしょうか。そこで憲法に関わる議論で,民主主義を否定する主張はまずみかけません。

 だからこそ,世界の独裁国家,つまり民主主義も立憲主義(法の支配)も機能していない国でも,民主主義の体裁だけは取りつくろうことがしばしばある。形だけの選挙をして「投票率100%で99.9%が与党を支持しました!」みたいな茶番を演じたりする。

 かつてのソ連で行われた「民主集中制」というしくみも,この手の偽装です。これは,下位の会議体が選抜・選挙した上位の会議体のメンバーに権限を委譲し,それを何段階も繰り返すことで,最高位の国家指導部に独裁的な権限が付与される,というしくみです。詳しい説明は省略しますが,要するに「多数決によって国のトップに独裁権力をあたえる手続きの一種」ということ。しかし実は「誰が会議体に参加するか」「そこで誰を選ぶか」は,国家権力が決めている。これも,やや手の込んだかたちですが「99.9%が与党支持です」的な選挙と本質は変わりません。

 「民主主義は大切だ」ということは子どもでも一応はわかる。そこで,その外形を装って,国家権力に「正統性」をあたえようとする独裁国家が後を絶たないのです。

 一方,法の支配や立憲主義は,民主主義よりもはるかにややこしいです。だから,多くの議論や批判があります。大新聞によるつい最近の論説でも「憲法が国家を拘束するというのは一方的な憲法観」という主旨のことが書かれていました。

 国家権力があまりにも法や民主主義に拘束されると,本来の役目が果たせなくなる,というのは本当でしょう。

 たとえば仮に,憲法9条による国家への拘束を極端におしすすめて,ほんとうに一切の軍事力の保持または行使をしない「丸腰」の国になったとしたら,無法な外国からの攻撃があったとしても,国を守ることができません。あるいは,大災害などの緊急事態で,政府が行う措置について,具体的にひとつひとつ国会で(民主的な手続きで)話し合って承認を取っていたら,手遅れになってしまいます。だから,実際の私たちの国の政治は,もっと現実的な制度やさじ加減のもとで運営されているのです。

 政府が必要なだけの強い権限を持って効果的に活動できることはきわめて重要です。そのような政府を組織できなかったために,外国の侵略によって滅びた国は,歴史上いくつもあります。たとえば近代において欧米列強の植民地になった国や地域には,その傾向がありました。

 だからこそ,「強力な・機能する政府」と「そのような政府が暴走しないよう拘束すること」のバランスをどうするか,というのが近代国家を運営するうえでの最も重要なポイントです。政府は強力でないと役に立たない。でも,そのような強力な政府は「怪物」のようなもの。怪物がむやみに暴れないようコントロールしないといけない。今回は立ち入りませんが,「三権分立」という国家機構のシステムは,そのような「権力の集中と制約」のバランスを取るために編み出された偉大な発明です。

 充実した福祉国家を実現するとしたら,政府は国民の生活の細部まで入り込んで,膨大な個人情報を手にすることになるでしょう。公平な税負担を実現するためには,すべての個人の財布の中身を十分に把握しないといけない。そのような情報や組織力を持つ政府は頼もしい反面,まさに怪物です。そして,現代の先進国の政府は,それに近い状態になっているのです。これを拘束することはやはり必要です。

 以上のような見方,つまり立憲主義的な思想は,私たちのあいだでどこまで共有できているでしょうか? 

 たしかに主流の考え方ではあります。でも一方で「法の拘束から,国家はもっと解放されるべきだ」という考えは,つねに社会のなかで一定の力を持っているはずです。とくに権力を行使する側の人たちに「法の拘束から自由になりたい」という思いが芽生えやすいのは,当然といえば当然です。そのほかにも,ある種の理念や正義感から「国家を法から解放しよう」という方向で主張する人たちも少なからずいるわけです。

 しかし,法の支配・立憲主義・三権分立を原則から否定した国が大失敗の末に崩壊していったのを,私たちは知っています。

 ナチス・ドイツや日本の軍国主義はそうでした。ソ連の社会主義もそうです。つまり「右」も「左」も法の支配を否定したあげくに破滅しています。中国も,毛沢東の時代のようなむき出しの独裁のままだったら体制崩壊していたでしょう。しかし,1980年ころに大きな路線変更をしたわけです。つまり,共産党の独裁(法の支配の否定)はありながらも,一方で財産権の一定の保障のような,ある程度の「法の支配」も存在する体制になった。妥協と混乱に満ちた体制ですが,そのことで今日の中国の発展があります。

 国家権力を法から解放してはいけないのです。第二次世界大戦のときの日本は,国家権力を大日本帝国憲法の制約から解き放ってしまった。大日本帝国憲法は,近代憲法としては不完全なところがありました。しかし,国家権力をコントロールする一定の機能は,果たしていたのです。昭和の戦争前夜のころから,そのような「拘束」は国の存続や発展にとって有害だとする考えが有力になっていった。

 また,ナチス・ドイツでは最後まで独自の憲法は制定されませんでした。ヒトラーは,憲法を制定すれば,それがたとえ自分の独裁を全面的に肯定するものであっても,どこかで憲法が自分を拘束することになる,とわかっていたのでしょう。

 法の支配の原則の重要性。
 それを理解することや実現することのむずかしさ。
 「国家権力における集中と制約」という課題。

 こういう根本のことを,もっと多くの人のあいだで共有したほうがいいと思います。それには一般的な法律や政治に関する議論だけでは足りません。どうしても歴史(世界史)の一定の知識も必要です。私は世界史に興味があり,このブログでもそのテーマの記事をいくつも書いてきました。私が世界史に関心があるのは,「今の社会のあり方を考えるうえで大事な情報がそこにある」と思うからです。

 以上,憲法記念日にちなんで,大風呂敷なことを述べました。たまには,こういうことを考えてみるのもいいでしょう。

*5月4日追記
 9条(戦争放棄)をはじめとする改憲の議論では,「改憲」か「護憲」かという対立軸のほかに,「立憲主義にたいする理解やスタンス」という軸もある,ということも大事です。改憲論者の中にも,立憲主義の原則を踏まえている人もいれば,「国家を法の拘束から解放すべきだ」と考え,立憲主義に否定的な人もいる。後者にとっては,憲法の9条や96条(憲法改正に関する条項)の改正は,国家を憲法の縛りから解放することの一環です。(96条の改正:憲法改正の要件を緩和して改正しやすくすること)
 護憲派では立憲主義(法による国家権力の拘束)を正面から否定する人は少ないでしょうが,立憲主義の重要性をどこまで認識しているかは,人によって差があるように思います。そして「強力な国家はやはり必要(だからそれをコントロールする必要もある)」という国家観を持つ護憲派の人がどれだけいるかは,私にはよくわかりません。護憲派のなかには「国家などないほうがいい」という,アナキズム(無政府主義)的な夢想に共感する人もある程度いるように感じます。アナキズムの発想からみると,憲法9条的な「軍事力を持たない平和国家」という方向性は,「国家を最小化する」という目標につながっているわけです。私は国家そのものを否定する発想は,立憲主義の否定と同じように「要注意」だと思います。

 以上,要するに「立憲主義否定=国家を好きすぎる人」「無政府主義=国家を嫌いすぎる人」も中にはいるので,そのような人の議論には注意すべき,と思うのです。

(以上)
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