2016年09月10日 (土) | Edit |
この2、3回のブログにも書いたとおり、つい最近世界史の本を出版しました(『中心の移り変わりで読む 一気わかる世界史』日本実業出版社)。その作業の追い込みのこの何か月かは、世界史関係以外の本を読むことが減っていました。

しかし、このところは世界史以外の本を、以前に読んだものも含め、たて続けに読んでいます。これが楽しい。おもに、現代日本の社会・経済にかかわる本。

たとえば、吉川洋『人口と日本経済 長寿、イノベーション、経済成長』(中公新書、2016)、村上由美子『武器としての人口減社会 国際比較統計でわかる日本の強さ』(光文社新書、2016)を読みました。

どちらの本も「少子高齢化時代の日本、その中長期の未来」を考えるというもので、よく読まれているようです。

このほか、数か月前に読んで今回読み返した、橘木俊詔『日本人と経済 労働・生活の視点から』(東洋経済新報社、2015)にも、共通の問題意識があります。

吉川『人口と日本経済』の最もおもな主張は、「人口が減っても、その国の豊かさに深くかかわる1人あたりGDPが向上できればいい」「1人あたりGDPを向上させるのはイノベーション(技術革新やすぐれた新企画で画期的な製品やサービスを生みだすこと)。イノベーションこそがカギだ」ということです。

こういう主張は「あたりまえ」といえば「あたりまえ」なのですが、著者はケインズ経済学の研究などで知られる有名な学者。そういう権威がていねいにさまざまな経済統計を示し、マルサスやケインズのような古典的な大学者の言説も引用しつつ述べているので、「説得力や厚み」を読者は感じるのだと思います。「やっぱりそうだよね」と、再確認ができる。

村上『武器としての人口減少社会』も、「イノベーションこそが重要」という基本的な考え方に立っていると思います。

『人口と日本経済』との関連で本書を読むならば、イノベーションを起こし、そこから産業・経済を発展させるうえで有利なさまざまな条件を、日本人や日本社会が持っている、と述べています。そのことを、さまざまな国際比較統計などを用いて論じている。著者は大手の外資系証券会社を経て、現在はOECD(経済協力開発機構)の東京センター長を務める、とのこと。

一方、橘木『日本人と経済』は、やや関心が異なります。橘木さんは、小泉政権のころ(2000年ころ)「現代の日本で格差が広がっている」という分析が大きな話題となった、やはり有名な経済学者です(『日本の経済格差 所得と資産から考える』岩波新書、1998など)。

橘木さんのほかの本もあわせて読むと、橘木さんは「日本経済がイノベーションでさらにおおいに発展する」ことが可能だとも、またその方向の取り組みがとくに重要だとも考えていないようです。「格差」の分析を重要なテーマにしてきた学者としては、そうなるのでしょう。

「少子高齢化と日本の未来」に関し、橘木さんがとくに関心を持つのは、「日本がどんな福祉や社会保障の国となるべきか」ということ。つまり「成長」ではなく「分配」の問題。この本はおもに日本経済史について述べていますが、最後のほうの未来への展望を述べたところで、そのへんの議論が出てきます。

その選択肢は大きく3つある、と橘木さんは言います。①ヨーロッパ型の福祉国家、②アメリカ型の低福祉の自由主義国家、③家族や地域社会が福祉を担う、かつての「美しい日本」の在り方を再構築する。

今の日本は、①~③のどれにも明確に属さない、中途半端なかたちのようです。日本の福祉・社会保障の政策は場当たり的で、きちんとした構想に基づく制度の構築がなされてこなかったところがあるのです。

橘木さんがおしているのは、①福祉国家です。③「美しい日本」的な方向は、一部の「保守」が主張しているが、橘木さんによれば現実的ではない。ただし、福祉国家にも北欧型の「高負担・高福祉」もあれば、ドイツ・フランスのような「中負担・中福祉」もある。おそらく「中負担・中福祉」が現実的であろう、と。

また、北欧の経済をみるかぎり、福祉の充実がイノベーションを阻害することはないはずだ、とも橘木さんは述べています。

***

以上の3冊はあわせて読むと、「日本の中長期の未来」を考えるうえで意味のある視点や情報をいろいろと得られると思います。1冊だけでもいいのですが、「あわせて読む」のが、とくにおすすめです。

3人の著者は、それぞれ考えや関心がちがいます。しかし、どの人もペラペラの情報や言説を流すのとは異なる、「知識人」と呼ぶに値する人たちだと感じます。とくに、専門知識をしっかりと持つ知識人。どうせなら、そういう人の書いた本をちゃんと読んだうえで、社会のことを考えたいと思います。

この中の誰かの見解に全面的に賛成でなくてもいいのです。じっさい私はそうです。でも読むことで、自分も考えることができる。それが読書の最大の意義です。

では「私は何を考えたか」というと、特別にオリジナルなことを思いついたわけではありません。でも、今回ここでまとめたような「視点」を得たわけです。これは、今後の読書はもちろん、さらには自分の行動にも一定の影響をあたえるでしょう。それなりの「問いかけ」が私のアタマにできた、あるいは再確認された、ということ。

「これからの日本人に、ほんとうにイノベーションが実現できるのか?そのような活力がまだあるのだろうか?」「日本人は、①福祉国家、②アメリカ的自由主義、③美しい日本的社会のうち、どれを選択するたろうか?」「ほんとうにほかに選択肢はないのか?」「いや、選択肢を明確にもできないまま、このままズルズルいかないだろうか?」

「悪いシナリオで、イノベーションによる成長も、きちんとした福祉国家の構築もすすまなかった場合もありうる。そんな場合にそなえ、個人として何をしておけばいいのだろうか」……たとえば、そんなことを考えるわけです。

そして、アメリカ自由主義的な「自助努力」の発想で、個人として経済力を高めなくては、と考えたりする。あるいは、家族やそのほかの人間的なつながりをしっかりしていくことも大事だ、とか。やはりどちらも大事ではある。そうだとしたら、何をする……そんなふうに考えたのでした。

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(以上)
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