2016年09月18日 (日) | Edit |
私は、世界史の本を書いたりもしていますが、この数年の生業(ナリワイ)は若い人向けのキャリア・カウンセラーです。就活にかかわる「最前線の現場」に多く接してきた、という自負があります。

とくに、中堅・中小企業の就職については、多くの求人などの具体的な情報をふまえた知識と経験があると思っています。ここは、大企業中心の今の「就活談義」のなかでは、手薄になっているところ。そして、社会の広い範囲や職業全体のなかでそれらの求人・仕事を位置づけることを意識してきました。それが、私の特長ではないかと。

また、私は自分のことを「社会のしくみ研究家」と称しています。世界史の本を書くのも、この社会、とくに「近代社会」というものをつかむための大事な作業のひとつです。

もちろんその「研究」は、私たちが生きてくうえで判断の役に立つ実用的・現実的なものでありたい。つまり、現場感覚を大切にしたい。しかし、単なるノウハウではないものをめざしています。

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先日、就活生(就職活動をしている学生・それに近い年齢の若者)の親世代の方と、仕事を離れた場所で話しをしていて、「就職活動や、若手の社会人として活躍する基礎として、役に立つ資格は?」ということを聞かれました。

学生さんなどの多くの若い人には、もしも資格の勉強をするならば、つぎの3つをとくにおすすめします。

1.日商簿記3級
2.TOEIC500か英検2級、できたらTOEIC600
3.自動車免許(オートマ限定でよい)

あとは、資格ではありませんが、4.基本的なパソコンのスキル

ワードでレポートを作成したり、ちょっとした案内やチラシをつくれたりする。エクセルで簡単な表やグラフがつくれる。パワポで一応の資料がつくれる、といった程度。苦手な人も、できれば最低そのくらいは。もちろん、得意な人はパソコンやITのスキルはどんどん伸ばしておきましょう。会社ではすごく重宝します。

これは文系・理系、男女を問いません。もちろん理系・技術系の人は、専門の勉強が何より大事ですし、文系の人も自分の専攻をしっかりやればいいのですが、それ以外で何かというのなら、ということ。

なーんだ、と思うかもしれません。
そんなレベルはとっくに超えている、という人もいるでしょうが、そういう方はもちろんさらに上を目指してもらえば。

でも、この3つをもっている人は、どのくらいいるでしょうか?
私のみてきた範囲でも、「3つ」を全部もっている就活生の人は少ないです。

英語をよく勉強して、TOEICもかなりのスコアである人がいても、その人が簿記の資格も持っていることは少ない。逆に簿記2級やFP(ファイナンシャル・プランナー)の資格を持っている人が、「英語の勉強には手が回りませんでした」ということも多い。

それから、自動車免許をもっていない学生さんも結構います。都会の人はとくにそうです。男子でも少なくない。今の親世代の若いころのような車への強い関心やあこがれが、今の若い世代にはないのです。都会だと、交通機関も発達しているので、生活上の切実な必要もない。

上記の3つの資格+基礎的パソコンスキルは、今の社会で「よき働き手」になるうえで役立つものです。

たとえば簿記の知識は、会社のお金の動き(会計)を理解するための基礎です。
また、会社だけでなく、個人の家計や政府の財政も「簿記」をベースに理解することができます。

***

英語の有効性は、いうまでもないでしょう。
ここでいいたいのは、「まずは英検2級やTOEIC500を」ということ。

「そんなレベルでは、英語ができるうちには入らない」という話を、多くの人は聞いているはずです。「TOEIC500」じゃなくて、700でも800でも、「そんなものは通用しない」みたいに述べているのを、私も見聞きしたことがあります。

そのような「エリート志向」な話は、まずは忘れましょう。

だいじなのは、「社会・ビジネスで求められる英語にもいろいろなレベルがある」ということ。

国際会議で同時通訳をするための英語と、海外でそれなりの商談をまとめてくるという英語はレベルがちがいます。もちろん、前者よりも後者のほうが易しいです(でも、相当な高いレベル)。

そして、「海外の決まった取引先と、比較的定型的なメールや電話でコンタクトをとる」(たとえば海外取引における「営業事務」「貿易事務」などの仕事)「限られたシチュエーションで案内や接客をする」(海外からの客が多いホテル、店舗などのスタッフ)といった英語もあるわけです。これは「海外で商談をまとめる」よりも易しい。

こういう「比較的易しい英語の仕事」で新卒を採用する場合には、多くの会社が求める一応の英語力はTOEIC500~600といったところ。それに相当するものとして英検2級でも可、ということ。

それだけでは仕事の現場では通用しないだろうけど、かまわない。足りないところは、あとでおぼえてもらえばいい。そんなふうに企業は考えます。

また、「海外で営業することもあるから、英語がまったくの苦手では困る。でも、入社時にTOEICで最低600くらいあれば、あとは人物しだいだ」という会社もあります。

「海外ではある種の行動力や対応力が求められるので、その適性のほうが英語ができることよりも大事。英語は仕事をしながら向上させればいい」ということです。ただし、海外営業を前提にした採用だと「人物優先だが、TOEIC700くらいはあったほうがいい」という会社も多いですが。

この「海外営業」の話は、おもに中堅・中小企業の新卒採用でのことです。大手人気企業で英語がかかわる就職では、また話がちがってきます。TOEICでいえばもっとスコアの高い人がたくさん受けるので、「必要な英語力」の相場が上がってしまうのです。

しかしそこでも「一定の英語力は求めるが、それよりも人物重視」ということは、同じです。

大事なのは、「大手人気企業に入社したい」という就活生たちの「必要な英語力」の話に惑わされないことです。

くりかえしますが、「社会で求められる・使える英語には、いろんなレベルがある」ということ。
その下限の目安が「TOEIC500」「英検2級」ということです。

正確にいうと、「そのくらいの資格があれば、あとは現場での経験や個人の努力でなんとかなるだろう」と、仕事の内容によっては企業はみてくれる、ということです。

別の言い方をすると、「私は英語がまったくの苦手というわけではありません」ということを、そのようなスコアや資格で一応は証明できる、ということです。

***

自動車免許については、「仕事で必要なのか?」と聞かれたこともあります。
いわゆる「ガテン系」の仕事であれば当然必要だろうが、自分はホワイトカラー系の仕事を志望している、それなら車の運転は関係ないのでは?そう思う人もいるようです。

たしかに大企業のホワイトカラーの仕事なら、そうなのです。でも、中堅・中小企業の場合、営業職(ホワイトカラーの一種)はお客さんのところへ自分で会社の車を運転して行くことが多いです。その車に商品や見本などをのせていくこともよくある。業界を問わず、そうなのです。エンジニアや事務職(たとえば総務や経理など)でも、運転しなくてはいけないことがあります。

だから中堅・中小企業の場合、新卒の採用条件に「自動車免許」とあることは、少なくありません。

「自分で車を運転して、移動できる」というのは、「会計の書類が読める」「英語ができる」「パソコンが使える」というのと並んで、現代人としての重要なスキルです。

ただ、大企業だと自社や取引先がアクセスの便利な場所に多かったり、車を運転してくれる関係者が周囲にいたり、タクシーをひんぱんに使えたり、といった条件に恵まれていることが多い。だから、自動車免許が必須ということにはならないのです。しかし、中堅・中小企業はそういう環境ではない、ということ。

***

ここでの話のすべてにつながるのは、「大企業志向の就活でいわれていることに惑わされない」という点です。
別のいいかたをすると「エリートぶる、つまり見栄をはるのはやめる」「エリートぶっている人の話に惑わされない」ということ。

これは、「高いレベルで社会で活躍する」ということを否定しているのではありません。

「エリートぶっている」のではなく、ほんとうにいわゆる「エリート」の立場にいる人をみると、意外とベーシックな重要な知識の勉強を大事にしています。

たとえば、私の知り合いに科学技術行政にかかわる「キャリア官僚」の人がいましたが、文系なので自然科学の知識が弱かった。その人は若手のころ、科学の勉強をするために高校の理科の参考書を持ち歩いて必死に読んでいました。

その手のエリートといえば、最近読んだ金融・経済関係の本『真説 経済・金融の仕組み』の著者・横山昭雄さんは、名門国立大学出の元日銀マンで、米イェール大で修士号も得ている人です。その人が、本の「あとがき」でこんなことを述べています。

《最後に、もしもこの書を手に取っていただいている貴方が、学生あるいは社会人生活の新人であるなら、今のうちに、是非とも複式簿記の手法をマスターされること(とりあえず、日商簿記3級の資格をとっておかれること)を強くお勧めする。それは社会現象を・・・捉えるための素晴らしい技術である》

エリート日銀マンも、最初は簿記3級の勉強からはじめたのです。商業高校の生徒と同じようなテキストで勉強していた。あたりまえといえばあたりまえのこと。

そして、エコノミストとして日本経済を論じた本書(『真説 経済・金融の仕組み』)でも、金融の仕組みを説明・分析するための道具として「3級」レベルの複式簿記は、重要なもの道具として使われています。

私も、資格はもっていないけど、若いころなどに少しだけ簿記の勉強をしたので、この本の議論に一応ついていくことができました。そして、この本から「多くのエコノミスト・経済学者があいまいにしている大事な視点を得ることができた」と感じています。簿記はやはり「社会現象を捉えるための素晴らしい道具」です。

「エリート」さんも、高校の参考書や簿記3級のテキストで勉強しているのです。
多くの若い人が「簿記3級」「TOEIC500」をめざす勉強をするのは、じつにまっとうなこと。

たとえばTOEICが900の人でも、簿記を知らないなら、3級のテキストで勉強をはじめたらいい、と思うのです。
900のスコアをさらにアップするために英語を勉強するよりも、そのほうが全体的な能力の向上になるかも。

そのレベルをすでに超えているならともかく、そこにまだ達していないなら、そこからはじめる。
しっかりやれば、見返りは多いはずです。

***

以上は、ほかの資格の勉強を否定しているのではありません。
したい勉強があり、その分野に定評のある資格があるなら、どんどんやればいいと思います。

ただ「新卒の就職」という目的で、「費用対効果」や「汎用性(広く役立つ)」「多くの人に到達可能」「座学や教習所で誰でも学べる」ということならば、簿記3級、TOEIC500か英検2級、自動車免許の3点セットは、とくにおすすめです。

ただし、「資格勉強で得たスキル」が就職活動での企業側の評価に占める比重は、それほど大きくない、ということも事実です。

それよりも、いわゆるコミュニケーションの力とか、面接などで表現される「人柄」的なものなどの、ややつかみどころのない部分が大きく作用します。その問題には、ここでは立ち入りません。そのような「つかみどころのない部分」以外で、何か資格勉強をするならということで、今回は3つの資格のことを述べました。

また、あくまで新卒(大学、短大などの卒業年次か、卒業後2~3年くらい)の就職活動においてである、ということも念をおしておきます。「中途採用」「社会人経験者」の世界では、またちがってきます。また、くりかえしますが理系・技術系の場合は、専攻の勉強が何よりもまず重視されるわけです。

それでもこの3つの資格については、やはり学んで損はありません。もう若くない人であっても、です。その後の人生で、ほぼそのままスキルとして役立ったり、さらにレベルアップする基礎になったり、「学んでよかった」という可能性がとくに高いのです。

(以上)
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