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2017年06月18日 (日) | Edit |
最近はまた、出版や発表のあてのない世界史の原稿を書いています。
それが、かなり進んできました。
そのほかの私事も重なって、ブログの更新が疎かになってしまいました。

***

最近ニュースや、いろいろな言論をみていて気になるのは、
「“理想の過去”への回帰にこだわる人びと」のことです。

その「理想の過去」とは、
大きなところだと、イスラム帝国が世界の文明の中心だった時代だったり、
中華帝国がヨーロッパをはるかにしのいでいた時代だったりします。

もう少しスケールを小さくすると、
アメリカが偉大だった時代(まあ、1950~60年代のことか)だったり、戦前の日本や、高度成長期の日本や、あるいはバブル時代の日本だったり。

こういう「〇〇の頃に帰れ」という主張は、現状への強い不満や問題意識から生まれています。その問題意識じたいは、根拠や意義のあるものが多いです。イスラム諸国や中国のなかに「反欧米」の思想が強く存在するのも、たしかにそれなりの根拠があります。

「アメリカを再び偉大に」というのも、「戦前の日本」「成長期の日本」に帰れ、というのもやはり、それ相応の問題意識があります。とくに、「〇〇の頃の日本に帰れ」という思いの背景には、私たちにとって身近で実感を伴う状況がある。たとえば…

なぜ今どきの若者は、やたらと用心深くなって、将来に夢を持ったり、積極的に遊んだりしないのだろう。オレが若かった頃(バブルの頃)は、そんなんじゃなかった。

なぜ今の日本経済では、モノつくりへの想いや勤勉さや未来への希望が失われたのか。高度成長時代の精神を取り戻すべきだ。

なぜ現代の(戦後の)日本人は、本来持っていたはずのさまざまな美徳を失ったのか。親や先生などの年長者や、社会の重要な立場にある人びと、そして「国」に対する敬愛の気持ちや礼節を失って、子供じみた自己主張ばかりしている。

これらの主張には、私にも共感できる部分(あくまで“部分”ですが)はあります。

だがしかし、こういう「過去への情念」みたいなものをベースにしている主張は、用心すべきだと思っています。この情念をもとに現代の問題に具体的に取り組むと、とんでもない間違いをしそうです。

バブルを懐かしむおじさんの言うことを聞いて、楽天的すぎる生活や人生設計でいったら、たしかに危険な気がします(たとえば過大な住宅ローンを組むとか)。あの頃と今では、経済や仕事や生活の前提条件があまりにちがいます。

製造業が経済の中心だった時代の感覚で、経済政策をおしすすめたら、これもとんでもないことになるでしょう。また、個々の企業で「つくるべきモノ」の方針を、過去の成功体験に求めてしまった結果、現在の望ましくない状況があるはずです。

「戦前」的なものへの思い入れも、同様です。たとえば、あの戦争に大敗したときの思想や精神とセットで国防の強化を論じるとしたら、やはり危険です。

私も、若者には夢をもってもらいたいし、勤勉な精神・モノづくりの精神は大事だと思うし、礼節を忘れた自己主張をとくにネット上で多くみかけるのを残念に思います。国防の問題も、たしかに重要だと思う。

でも、そのあたりの「問題」をよい方向に動かすうえで大事なのは、過去への思い入れではない。

抽象的な言い方ですが、やはり前に行くしかない。

今の、成熟した低成長の、超高齢化の時代でどう生きるのか。金融やITやサービス業が先進国の主要産業になった時代で、何をつくることが有効なのか。多くの人がもっとよく考えた主張や発言をするように、何をすべきか。

要するに、「今の」現実に向き合って、いろんな工夫や研究や勉強や教育をしていくということです。私たちの先輩や祖先は、時代に合わせてそのような努力をしてきた。逸脱もありましたが、大筋でそうやってきた。私たちも、これからの時代に合わせて、「前に行く」取り組みをするしかない。

昔の言葉でいえば、「啓蒙」とか「進歩主義」的なスタンスですね。

その手の主張に、教師の説教のようなうさん臭さを感じる人もいるでしょう。「啓蒙」や「進歩主義」の主張には、反抗心を起こさせるところがあります。そこから「理想の過去」への回帰という考えに惹かれていく人もいる。でも、「そちらに行ってもダメなのでは」と私は思っています。

「理想の過去」への回帰にこだわる、そのベースにはある種の反抗心があるのかもしれない。いかにも「正統派」な理想論を説く教師(あるいは親、上司、その他の権威)への反抗心です。「教師」が言うこととはちがう価値観を求めて、「理想の過去」に行き当たった。

なんだか抽象的な話になってしまいました。
でも、今気になっているところなので、書きました。

(以上)
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