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2019年09月01日 (日) | Edit |
大規模な抗議デモが続く、最近の香港。香港人の犯罪の容疑者を中国本土に引き渡すことを可能とする、条例の改正(「逃亡犯条例」改正)への反対から、このような抗議活動が起こった。

香港の人たちが「逃亡犯条例」改正に反対するのは、香港の法治がそれで失われるのを恐れるからだ。このことについて、抗議活動の中心の1人である周庭(アグネス・チョウ)さんが、今年6月の明治大学での講演で、わかりやすく説明している。(ハフポスト日本版2019年6月12日「香港が想像できない場所になる」 “民主の女神“が訴えた、逃亡犯条例の危険性)

「逃亡犯条例」改正によって香港はどうなるか。周庭さんは、こう述べる。

“自由や権利の保障、司法の独立が全部無くなります。私たちの身の安全すら保障されない場合があります。なぜ香港は外国からの観光客が多く、外国の企業も多いのでしょうか。香港には国際金融都市という地位があるからです”

“なぜその地位があるかというと、1国2制度という制度があって、私たちは法治社会であり、司法の独立や公平な裁判が行われる場所なので、外国の人も安心して商売ができる場所なんです。でも、この特別な地位は無くなるかもしれません”。

“今デモに参加している香港人は、可決されたら香港はもう香港じゃないというか、私たちが想像できない場所になるかもしれないという考えを持っています”

周庭さんは8月30日の朝、香港警察に逮捕され、夜には釈放されたそうだ。テレビのニュースをみていると、彼女は釈放後のインタビューで「今闘わないと香港は死ぬ」「逮捕は怖くない、当局に殺されることが怖い」ということを語っていた。

そこには危機感というより悲壮感が漂っている。市民運動といわれるものでは「今は深刻な危機だ、立ちあがろう!」ということが叫ばれるものだが、深刻さをおおげさに言っているんじゃないかと思えるケースもないわけではない。しかし今回の香港は、ほんとうに深刻なのだ。今までの、法治に支えられた自由が社会から失われようとしている。香港が香港でなくなろうとしている……

今の香港の状況は、ときどきひきあいに出される、1989年に中国本土でおこった天安門事件(民主化を求める若者らの運動に対し中国当局が武力を用いて、多くの死傷者が出た)のときとは大きくちがう。天安門事件のときは、自由や民主主義が成立していない発展途上国での民主化要求だった。しかし香港では、イギリス統治時代から形成され、すでに社会に根付いた法治や自由が失われようとしているのである。ただし、基本の構図がちがうといっても、香港でも天安門事件のような中国政府の武力介入は、十分起こり得るだろう。

私たちが「自由を求める抗議活動」で思い浮かべるのは、ふつうは天安門事件のときのような「発展途上国型」のものだろう。これに対し、今回の香港のように、すでに自由が根付いていた社会で、それが失われる危機に直面して抗議が起こるというパターンは、「先進国型」といってもいい。

「先進国型」の政治的な抗議活動がこんなにも深刻なかたちで行われるというのは、じつは私たちにはなじみのないことだ。

欧米や日本で一般に行われる政治的な抗議活動には、今回の香港ほどの深刻さはない。「我が国は民主主義からは程遠い独裁国家だ!」と批判する人も、じつは自由の根本が自国から失われることはないとタカをくくっているところがあると思う。しかし香港の人たちは、法治を否定した正真正銘の独裁国家である、今の中国にすべてを支配されるという恐怖に直面しているのだ。

今までの世界では、人びとが独裁的な国家から自由を勝ち取ろうとする戦いが繰り返されてきた。それはこれからも続くだろう。しかしその一方で「これまでの自由が失われることへの抵抗」が、世界のあちこちで起こるかもしれない。要するに先進地域での「自由の後退」ということだ。

もしそうだとすれば、香港はそのような世界的な「自由の後退」現象の先駆けとなるのだろう。その意味で、今の香港で起こっていることは、世界史の最先端なのではないか。

今の世界では、中国のような自由に制限のある独裁国家が、巨大な経済力で世界に影響を与えるようになった。そして、中国との経済的な関係に配慮してか、日本や欧米諸国の政府が香港の抗議活動を援護するという動きはあまりみられない。

20、30年前の世界では、大きな経済力を持つのは自由や民主主義が発達した、欧米や日本などの先進国だけだった。もしもその当時、今の香港のようなことがあったら、圧倒的なパワーを持つ先進国側が中国をけん制することも期待できただろう。しかし今ではそういう構図はかなり崩れてしまった。自由や民主主義を原則とする国家の相対的なパワーは衰えている。それが世界的な「自由の後退」のベースとなり得る。

そしてほんとうの「自由の後退」ということに、まだ私たちは慣れていない。そのせいか、香港についてのマスコミの報道も「この混乱はまだ当分続きそうです」みたいなしめくくりで、ずいぶん能天気だったりする。周庭さんたち香港市民の悲壮感をわかっていない。あの人たちは「混乱」などではなく「自分たちの世界の崩壊」に直面しているのだろう。

(以上)
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