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2013年03月20日 (水) | Edit |
今日3月20日は,経営学の開拓者フレデリック・テイラーの誕生日です。
そこで彼の「四百文字の偉人伝」を。
「四百文字程度で,古今東西のさまざまな偉人を紹介する」シリーズ。

その101話をまとめた電子書籍『四百文字の偉人伝』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)も発売中です(アマゾンKindleストア,楽天kobo,ディスカヴァー社のホームページにて販売,400円)

テイラー

ストップウォッチで経営を測る

 技術者のフレデリック・テイラー(1856~1915 アメリカ)は,1800年代の終わりに「工場などの仕事の現場で生産性を上げ,経営を改善する方法」の研究をはじめました。
 彼のやり方はこうです。「労働者が,ひとつひとつの作業に何分何秒かかるか」をストップウォッチで測ります。何でもタイムや仕事量を測っては,いろいろ試して「ムダのないやり方」を追及するのです。
 「そんな単純なことで,経営の問題を改善できるのか?」と思うかもしれません。
 しかし,彼のやり方でいくつもの企業が生産性を向上させたのでした。
 机の上で理論を練るよりも,彼はまず「現場で起きていること」を明らかにしようとしたのです。
 事実を知るのは,科学や学問の基本です。それだけでは限界もあるでしょう。
 でも,現場の労働をテイラーのように研究した人は,それまでいませんでした。
 彼は,ストップウォッチを片手に「経営学」という新しい学問を切りひらいたのです。

クレイナー著,岸本・黒岩訳『マネジメントの世紀1901~2000』(東洋経済新報社,2000),テイラー著・有賀裕子訳『新訳 科学的管理法』(ダイヤモンド社,2009)による。

【フレデリック・テイラー】
 20世紀の新しい学問である,経営学の開拓者。経営コンサルタントの元祖ともいえる。主著は『科学的管理法』(1911年刊)。もともとは技術者であり,数多くの発明をして富を得た。
1856年3月20日生まれ 1915年3月21日没

                      *
 
私は,テイラーの発想は,今も有効性があると考えます。
でも,今の経営・マネジメントの世界では「化石」扱いだろうな,とは思っていました。
しかし,「今どき」の有名な経営書で,テイラーのことを熱心に述べている本もあります。

エリック・リース著,井口耕一訳 リーン・スタートアップ ―ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす 日経BP社,2012年,1800円+税 

この本は,「起業のマネジメント」について論じた本です。
新しい事業の立ち上げを,ムダなくスピード感をもって行うには,何が大切かということを論じています。「リーン」とは,英語で「贅肉のない」という意味。

製造業の世界で「リーン生産方式」というものがあります。アメリカの学者が,日本の自動車産業,とくに「トヨタ生産方式」を研究して体系化した考え方です(「「トヨタ生産方式」は,当ブログの2月28日の記事でとりあげた,大野耐一が中心となってつくりあげた)。

この本では,リーン生産方式の発想を,製造業にかぎらず,さまざまな事業の立ち上げに適用していこうとしています。

では,ムダなく俊敏に事業を立ち上げていくには,何が必要なのか。
本書で「解説」を書いた伊藤穰一さんは,こうまとめています。

《地図を捨てコンパスを頼りに進め》

ここを,訳者の井口耕一さんは, 《思い込みを捨て,実験による検証という科学的な進め方をする》ことだと述べています。

たとえば,本書のキーワードのひとつとして,「実用最小限の製品(MVP,ミニマム・バイアブル・プロダクト)」というコンセプトがあります。

よく大企業でみかけるように,内輪で「ああでもない・こうでもない」とばかりやっていてはダメ。まずはお客さんに体験してもらえる最小限のものをつくって,試してもらう。そして,結果を検証し,それによって手直しを加えていく……そんな「検証による学び」こそが重要なのだ。それが「実用最小限の製品」というコンセプト。

「検証による学び」を重ねることで,何がわかってくるのか。

それは,「我々は何をつくるべきか?」ということ。 

現代の企業は,「どうつくるか」ばかりに熱心で,「何をつくるか」についてはおろそかにしている。その結果,巨大な生産力をつかって,的外れな製品を大量生産している。これほどムダなことはない,と著者のリースは述べています(日本の現在の家電業界は,まさにこの問題をかかえている)。

「実用最小限の製品」というコトバは,私も気に入りました。

私は,文章を書きたいと思っている人間ですが,そんな自分にとって「実用最小限の製品」ってなんだろう?

たぶんそれは,「まとまった著作にするまえの表現」だと思います。おもしろいと思ったネタを,周囲の人に話してみる,なんていうのはまさにそう。このブログでの記事も,文章として「実用最小限」という面があります。

その人の仕事ごとに,「実用最小限の製品」というのはあるはずです。あなたの「実用最小限の製品」は,どんなものですか?

なお,「実用最小限の製品」のコンセプトに近いことを,この本よりもさらに簡潔に述べた本として,
ピーター・シムズ著,滑川海彦・高橋信夫訳 小さく賭けろ!―世界を変えた人と組織の成功の秘密 日経BP社,2012年,1600円+税 
という良書もありますが,また別の機会に取りあげます。

***
 
そして,この本では,「検証による学びの精神」のパイオニアとして,テイラーを高く評価しているのです。

著者のリースは,つぎのように述べています。少々長く引用しますが,要するに「テイラーは後世に多大な影響を与えた。彼の主張を,形式だけマネてもろくな成果はあがらなかったが,テイラーの基本精神は,今も有効である」ということです。

《…2011年はフレデリック・ウィンズロウ・テイラーの『科学的管理法』が世に出て100周年にあたる。いま我々が当然のように思っている繁栄を可能にしたのが科学的管理で,…いま,マネジメントのひと言で表されるものはテイラーに端を発しているものが多い。》

《ただ,彼を契機にはじまった改革は,ある意味,成功しすぎた面が多い。テイラーは科学的に考えるべきだと説いたが,彼が推奨したさまざまな手法を守ればいいと勘違いした人が大勢いる。時間動作研究や差別出来高給制度,そして何といっても腹が立つ,労働者を自動機械のように扱う考え方などを,だ。このような考え方は多くがのちにとても有害だと証明され,…》

《リーン生産方式はこの反省に立ち,工場労働者が内に秘めた知恵や独創力に着目するとともに,効率というテイラーの考えを個人レベルのタスクではなく有機的な企業全体に焦点をあててとらえ直すものだ。》


そして,こう述べています。

《同時に(リーン生産方式は),作業は科学的な研究が可能で,実験によって改善していけるというテイラーの中核となる考え方は踏襲している。》
(以上354~355ページ)

また,リースは,テイラーがどれほど「実験的に仕事を解明する」ことに力を注いだかについても,強調しています。

《テイラーは,1880年代の末ころから鉄鋼の切断方法を最適化する実験プログラムを推進した。25年以上にわたるこの研究で行われた実験の回数は2万回を超えている。しかも,学会の支援もなければ政府の研究開発予算も受けていない。費用はすべて,実験の成果として得られた生産性の向上から利益を得た企業が負担した。》

《これ以外にも,…科学的管理を学んだ人たちが,れんがの積み方,…シャベルの使い方にいたるまで,それぞれ何年もの時間をかけて研究したのだ。彼らは,真実を学ぼうと考え,職人の知恵や専門家の教訓めいた話では納得しなかった。》

 
そして,こう結んでいます。

《いま,部下の仕事の進め方にここまでの興味をいだく知識労働マネージャーはいるだろうか。イノベーションをめざす仕事の多くは,科学的根拠のないキャッチフレーズで進められているのではないだろうか。》
(以上364ページ)

そうだよなあ…今の時代にも,私たちはテイラーを必要としているのでしょう。それもあちこちで,大量に。

(以上) 
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テーマ:歴史雑学
ジャンル:学問・文化・芸術
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