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2013年03月30日 (土) | Edit |
「社会の変化はゆっくりになっている」論の3回目です。
これまでの話(2月14日3月24日)に対し,読者の方から反応をいただきました。

《時代の変化がゆっくりになっている論は,奥が深そうですね。他にもそう言える現象がないか探してしまいそうです。》

《お話大変おもしろいです。だいぶ前にそういちさんからウルトラマンや仮面ライダーのことを伺って,そうだなあとずっと思ってきました。で,その原因は何でしょうか?》

そこで,今回は「ほかにもそう言える現象はないか」「その原因は何か」といったことについてです。

今まで「社会の変化はゆっくりになっている」という実例として,ポピュラー音楽やイスのデザインのような,社会や文明全体からみれば,どちらかというとミクロなことをあげてきました。「親子が同じキャラクターに夢中になっている」などというのは,「ミクロ」の最たるものです。

もっと大きな現象はないのでしょうか?
あります。それは「技術革新」にかんすることです。
 
たとえば,宇宙旅行。1969年のアポロ11号以来,1972年まで月への有人飛行が行われてきましたが,その後はとだえています。SFにでてくるような月面宇宙ステーションは21世紀になった今も実現していません。

実用化された史上最速のジェット旅客機は,1969年に初飛行したコンコルドです(イギリス,フランスの共同開発)。その最高速度はマッハ2。採算性の問題があり,同機は2003年に引退しました。その後,商業飛行を行う,コンコルドのような「超音速旅客機」はあらわれていません。

「最速の旅客機」の性能(速度にかぎってですが)は,1970年ころ以降,足踏みしたままなのです。それはつまり,「一般の人が乗る最速の乗り物のスピード」が,何十年も変わっていないということです。
 
そういえば,東京~大阪間の所要時間も,この50年ほど,そんなに変わっていません。1964年に東海道新幹線が開通して,東京~大阪間は,それまでの特急の7時間半から,3時間余りになりました。それが1990年代半ばに2時間半になって,現在にいたっています。たしかに時間短縮はされましたが,新幹線ができたときとくらべれば,インパクトは小さいです。

40年ほど前に子どもだった私は「21世紀には時速500キロのリニアモーターカーの時代になる」と聞かされていましたが,いまだ実現していません。

もっと身近なところで,自宅のなかを見わたしてみましょう。電気照明,冷蔵庫,電話,テレビ,自家用車といった文明の利器は,1950年代の時点で,すでにありました。当時のアメリカでは,それらは多くの家庭に普及していました(日本では1960年代以降に普及した)。

今の私たちの家にあるもので,1950年代当時なかったものといえば,パソコンやインターネットくらいのものです。

***
 
以上のことは,1900年代前半までの技術革新にくらべ,その後の技術革新が,スローダウンしていることのあらわれではないでしょうか。

そして,この「技術革新のスローダウン」こそが,「社会の変化がゆっくりになっている」ことの根底にあるのではないでしょうか。

技術革新は,生産活動や日々の暮らしを変えていきます。経済成長を左右する大きな要因です。つまり,技術革新は社会を変えていくのです。それが急速であれば,社会は急速に変わるし,スローダウンすれば,社会の変化はゆっくりになる……言ってしまえばあたりまえの話です。

私は,こういうことを10数年くらいまえから考えていました。10年ほど前には,2月14日の記事のもとになったレポートを書いて,周囲の人にみせたり話したりしています。

大風呂敷に言えば,

「近代社会を生み出し,発展させてきたさまざまな革新が,だんだんとネタ切れになっているのではないか。近代社会が,創業期の勢いを失いつつあるのではないか」

ということを考えたのです。
そして,それがマクロやミクロのさまざまな現象としてあらわれているのではないか,と。

***

でも,そう考えるのは,私だけではないようです。「技術革新の停滞が,社会・経済の停滞を生んでいる」と主張して,近年アメリカで評判になった本があります。

タイラー・コーエン著,池村千秋訳 大停滞  NTT出版,2011年(原著2011),1600円+税

という本です。著者は,大学教授の経済学者。

「アポロ計画以降の宇宙開発」や「家庭にある文明の利器で,最近新しく出てきたのはパソコンやインターネットくらい」といった「技術革新の停滞」の事例は,コーエンの本にもあります。

この本については,「誇大妄想」といわれそうですが,「やられた」と思いました(^^;)。その一方で,「ほらね」と,自分の見識を(かつて話しをした友人たちに)自慢したい気持ちもあります。

コーエンは,「1970年代以降,アメリカ経済は〈大停滞〉の時代を迎えている」といいます。それはゼロ成長ということではなく,以前の高成長の時代がおわり,成長が鈍化してきたということです。

たとえば《一九七〇年代以降,アメリカ人の所得の中央値はきわめて緩やかにしか上昇していない》のだと,統計を示して述べています。
 
そのような「大停滞」が起きたのは,なぜなのか?

コーエンはこれを《容易に収穫できる果実は食べつくされた》と表現します。まとめると,こういうことです。

かつてのアメリカ経済には,「無償の手つかずの土地」という資源が豊富にあった。さまざまな「イノベーション(技術革新)」が活発に行われ,教育によって可能性を大きく開花させることができる「未教育の賢い子どもたち」が大勢いた。1700年代以降,このような「容易に収穫できる果実」の存在が,アメリカ経済の成長を後押ししてきた。しかし,この数十年でそのような成長の源泉が枯渇してきたために,経済成長は鈍化するようになった……
 
コーエンがいう「容易に収穫できる果実」(「無償の土地」「技術革新」「未教育の子ども」)のうち,最も重要で普遍的なのは,「技術革新」でしょう。コーエンもこれを議論の中心にすえています。

そして,「大停滞」にかんする議論も,おもに「技術革新が停滞期に入っている」という見方をめぐってのことでした。「いわれてみれば,たしかにそうだ」という人はかなりいましたが,疑問をいだく人も多かったのです。

技術革新は,ほんとうに停滞しているのか? これについては,また次回考えてみたいと思います。
 
(以上)
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コメント
この記事へのコメント
「社会の変化はゆっくりになっている?」シリーズを古いのから順番に読んでいます。
推理小説を読み進むような楽しさ!
そんなわけで、とんちんかんなコメントしてたらごめんなさいね(^_^;)

戦時には兵器の開発が平和なときの3倍進むと聞いたことがあります。
宇宙開発には冷戦の影響があったとも。

大きな戦争がないから技術が発達しないのだとすれば、いいことなのかなぁ・・・。

《容易に収穫できる果実は食べつくされた》
なるほどー。
でも「未教育の賢い子どもたち」は発展途上国にいっぱいいると思います。
「無償の手つかずの土地」も宇宙や海中にはいっぱいあるし。
容易には収穫できない果実は無限にある、はず。

2013/11/06(Wed) 20:59 | URL  | ピピネラ #eR1ha.nA[ 編集]
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